野球のパンツ丈と誤審の関係、“イチローストッキング”は不利?

2006/05/29 20:31 Written by コジマ

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近年、米大リーグだけでなく、日本のプロ野球でも大ブームを起こしている丈の長いパンツ(こちらの写真参照)。ストッキング(靴下=アンダーストッキングの上に履く、アンダーシャツと同じ色のもの)が全く見えないほど長く、スパイクの上でだぶつかせている選手もちらほら。そんななか、大リーグ、シアトル・マリナーズのイチロー外野手は、先のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)以来、時代に逆行するかのように丈の短いパンツ(こちらの写真参照)で試合に臨んでいる。こうしたユニホームのパンツの丈と誤審について、スポーツコラムニストの木本大志氏が、スポーツナビの連載コラム「ICHIRO STYLE 2006」で語っているのだ。

ユニホームのこうした着こなしは、日本でも規定のうるさい高校野球を除いて、プロ・アマ問わず流行している。草野球の大会で出ると、ストッキングを露出させているのは年配の人やイチロー外野手のようなこだわりを持った選手だけなのだ。しかし、身だしなみにうるさい東北楽天の野村克也監督は、就任早々から選手全員に「ストッキングを見せるように」と通達している。こうした着こなしについては、ルールに抵触しない限り選手個人の自由だと思うのだけれど、木本氏のコラムは審判側からの視点でロング丈パンツに迫っているのが面白い。

同氏がインタビューしたのは、大リーグの元審判員で、現在は審判のスーパーバイザーを務めるクリス・ジョーンズ氏。シアトル・マリナーズ対タンパベイ・デビルレイズ戦を、マリナーズの本拠地、セーフコ・フィールドで観戦しながらのインタビューだった。当初、木本氏はWBCでの誤審や各審判独自のストライクゾーンがあるかなどの質問をしていたのだけれど、ジョーンズ氏はイチロー外野手が打席に立つとパンツの丈について語り始め、丈の長いパンツの草分けがデビルレイズのジョージ・ヘンドリック一塁ベースコーチであると説明。なぜ覚えているのかという問いに、「ロングパンツは、審判泣かせだから」と答えているのだ。

それまで短かったパンツの丈が伸び始めた1950年代に、ビル・スチュワートという審判が「パンツの丈が長くなって、低めのストライクゾーンが判定しづらくなった。ストッキングをひざ下まで上げてもらえないだろうか」という要望書を提出しているように、審判はストッキングとユニホームの境目をストライクゾーンの参考にしていることが分かるのだ。それからどんどんパンツの丈が伸びていき、ついにはストッキングが見えなくなるほどにまでなった現在も、審判は低めの判定に苦労しているのだとか。しかし、半世紀が経過しているというのに、まだ判定をその境目に頼るということが行われているとは……。ほかに基準になるものがないのだろうか。ジョーンズ氏は「このまま彼の影響で、はやったりしないかな(笑)」と語っている。

このロングパンツは何も審判が困惑しているだけでなく、選手にも影響しているとジョーンズ氏はしている。イチロー外野手のような短い丈のパンツを穿くことによって、低めの誤審が減るというのだ。ボール球をストライクと判定されるのは、たしかに選手にとって腹立たしいものだろう。「自分のストライクゾーン」に絶対的な自信を持つイチロー外野手のような選手にとって、たしかにメリットのあることなのだ。

しかし、木本氏は「審判が低目を見極めやすくなるなら、投手も低目に投げやすくなる」と仮定し、ヘンドリック一塁コーチがセントルイス・カージナルスに在籍していた現役時代、こうした仮定をもとにロングパンツを穿くようになったことを紹介、「逆に言えば、イチローのようなクラシック派は、不利益を受けることに」なるとしているのだ。

こうした懸念を示した同氏だけど、結局、現役2投手がミット以外を投げる目標としていないという証言や、ヘンドリック一塁コーチの現役時代の成績を紹介し、イチロー外野手の今季4月上旬の不振はユニホームの丈と関係ないと結論している。ということは、ジョーンズ氏の言うような誤審防止策としてのユニホーム丈の長さに、イチロー外野手が適応してきたという考えも成り立ちそうだけど……。

日本のプロ野球にこのロングパンツを流行させたのは落合博満・中日監督なのだけれど、最初にストッキングを見せない穿き方をしたのは、王貞治・ソフトバンク監督なのだとか。王監督は「一歩足打法」で有名だった現役時代、足の上げ下げですそが下がってしまうため、最初から下げて穿いていたのだそう。日本ハムの新庄剛志外野手の服装が話題になった野球のユニホームだけど、さまざまな視点から見ると、ファッション性以外にそれぞれにメリット、デメリットがあるんだなあと感心してしまったのだ。

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