女優・有村架純（30歳）が2月23日、都内で行われた映画「ちひろさん」の初日舞台挨拶に、今泉力哉監督と共に登壇。作品への想いを語った。

本作は、月刊漫画誌「Eleganceイブ」（秋田書店刊）で2013年から2018年にわたって第一部が連載された漫画「ちひろさん」が原作。元風俗嬢の主人公・ちひろが、とある海辺の町の小さなお弁当屋さんで働きながら、心に傷や悩みを抱えて上手く生きることができない人々と交流し、彼女の言葉や行動がそれぞれの生き方に影響を与えていく人間ドラマが描かれる。

およそ130の客席は、報道陣、観客で超満員。そんな劇場の盛況な様子を目の当たりにした有村は「久々にこのようなアットホームな劇場に来ることができて。初心を思い出しました」とニッコリ。「どの映画の公開日も、本当にあっという間なんですけど、この映画の公開も本当にあっという間で。（本作は）つい最近、撮影したばかりなので、記憶がどんどん蘇ってきます。焼津に行って撮影をしていたなとか、風が強かったなとか。そういうことを思い出します」と付け加えた。

今泉監督も「撮影は去年の3月、4月とちょうど1年前くらいだったんですけど、Netflix配信と劇場公開が同時というのも初めてですし、なんだか実感が湧かなかったりもするんですが、でも映画館で上映できることも含めて、こうしてお客さんにとどけることができてうれしく思います」と晴れやかな顔を見せた。

有村が演じるのは、元風俗嬢のお弁当屋さんのちひろ。彼女の常識にとらわれない言動が周囲の人たちの生き方に影響を与えていく、という役どころだ。そんなちひろ役について「ここまで役に近づけない、近づけさせてもらえない役どころは初めて。これまでは役に寄っていく、もしくは役を引き寄せていくというアプローチの仕方でやってきましたけど、（ちひろという役は）自分が近づくと離れて。磁石のようにくっつけないというか。そういう感覚が最後まであって。ちひろというよりは、“ちひろさん”という感じがしっくりくるような。そういう特別な存在でしたね」としみじみ語った有村だったが、「でも……もっと他に（候補の人が）いたんじゃないかな？」とぶちまけて、会場は大笑い。そんな会場の反応に思わず自分でも笑ってしまった有村だが「でも役目を果たしたかったんで、懸命に撮影の日々を過ごしました」としっかりと付け加えた。

そしてその言葉には今泉監督も大笑い。「自分と距離があるというのは不思議な感覚だし、役者さんにしか分からない感覚ですけど、現場ではしっかりとちひろさんとしていらっしゃったと思います」と語ると、「原作の安田さんが言ってたけど、誰が演じてもあのキャラクターって存在するのかな思うようなところがある。そこから始まって。（役を）つかめない距離なりに、有村さんがちひろさんというキャラクターを尊いものとして扱ってくれたからこそ、こういう作品になったかなと」とキッパリ。

さらに「逆に役をつかんでしまうと、違うちひろさんになったと思う。ちひろさんって変な大人というか、普通の大人ならこうしなきゃいけないというところとか。常識に縛られたりするようなところがあるのに、（彼女は）ひょうひょうと生きてて。不真面目というか、適当な大人という印象があったんですけど、取材をすればするほど、逆に真面目な人にしか（演じるのは）無理だなと思うようになったというか。ある種、器用に生きられる人だったら、不真面目にもできるけど、真面目だからあの生き方ができるのかなと思って。それは有村さんの真面目な部分とリンクしたかなと思いました」と振り返った。

そんな二人は、WOWOWのドラマ「撮休」でタッグを組んでいるが、実はそれ以外にも「JA共済」のCM撮影でも何度か一緒になっていたのだという。

「その現場で『「ちひろさん」（原作）を読みました？』と確認したり、原作者の安田さんが、根暗か根明だったら、ちょっと暗い人の方がいいとおっしゃってますが、大丈夫ですかねと聞いたら、そこは大丈夫ですとおっしゃったりとか。そういう会話を交わしたりしました」と振り返る今泉監督だった。

そんな舞台あいさつもいよいよ終盤。最後のあいさつを求められた有村は「原作のファンの方もいらっしゃると思いますが、今泉さんが『ちひろさん』という世界観を作ってくれました。キャストの皆さんの、穏やかですばらしいお芝居が、この作品にも詰まってますし、マコトを演じた鉄くん（子役の嶋田鉄太）も一生懸命頑張ってくれました。公開と同時にたくさんの方に観ていただける機会もそうそうないので、この作品がどう届くか、楽しみにしています」と笑顔でメッセージを送った。