現実と「STAR WARS」の世界が融合する異色の写真展「DARK LENS」。

2015/11/29 13:48 Written by Narinari.com編集部

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現実と「STAR WARS」(以下、スター・ウォーズ)の世界が融合する異色の写真展「DARK LENS」が、渋谷・ディーゼルアートギャラリーにて開催中だ(〜2016年2月11日)。

霧の中を徘徊するAT-AT、荒涼とした都市の中を疾走するスピーダーバイク、ドバイのビルの建設現場に着陸するミレニアム・ファルコンなど、ジョージ・ルーカスによって生みだされたキャラクターが、まるで私たちの世界に入り込んだかのような作品は各国のファンに支持されている。

作品を手掛けたのはパリ在住のアーティスト、セドリック・デルソーさん。今回、日本初個展を行うセドリックさんにインタビューを行った。(通訳:キュレーター ベルゴンゾ・フィリップ氏)

――初めての東京はいかがですか?
今まで色んな国から呼ばれて個展を開いてきましたが、インドと日本だけはまだ行ったことがありませんでした。今回個展を機に来日が実現し、嬉しく思います。東京は光も、色も、線も他の都市とは違いますね。

いつもカメラを2台持ち歩いています。カメラを持つことで、周りの人たちや建物、風景などとコミュニケーションできるようになり、安心します。今朝はプライベート用の小さいカメラで、新宿・表参道・渋谷など写真を撮って歩きました。ほとんど自然に任せるような感じでパパパパパと。

――作品を作った経緯を教えてください。
私がやりたいことは、単に「面白い」や「楽しい」など言われる作品を作ることではありません。誰もが見る日常の風景にSFのものを溶け込ませることによって、実際にはありえないけど、まるでありえるような世界を作り出すことです。

――なぜスター・ウォーズをモチーフに選ばれたのですか?
私とスター・ウォーズとの出会いは9歳のとき。3作目に当たるエピソードVIが公開された年でした。この作品のインパクトによって、私の中でSFの扉が開きました。SF映画は他にもたくさんありますが、星々で異なる文化や言葉、未来の過去・過去の未来など、ここまで細かく世界を作り込んだ人はジョージ・ルーカスしかいないと考えています。私にとっては、「SF=スター・ウォーズ」なのです。

――作品はどのような過程で作られるのですか?
写真を撮るときにはステップがあります。初めてその土地に訪れたときは、今朝のように小さいカメラで何も考えず撮りまくります。その段階では、作品に使えるような場所があるかどうかはまだわかりません。ただ「感じる」のです。この過程が「撮る」よりも大事。まずは、作品を作るための気持ちを呼ぶのです。

続いて作品にする写真の撮影に移るときは、まるでメガネをかけるように気持ちを切り替えます。例えば「Dark Lens」のシリーズだったら、「Dark Lensメガネ」をかけて。また、1つのシリーズのために撮った写真は、他のシリーズで使うことはありません。シリーズによってメガネ(=気持ち)も変わります。

――作品を作る際に気を付けていることは?
バランスがとても重要ですね。キャラクターのインパクトが強すぎれば、ただのスター・ウォーズの写真になる。足りなければ、スター・ウォーズとまったく関係の無い写真になってしまう。何年か前に、「こんな作品は誰でも作れる」と言って真似をしていた人たちがいました。けれど実際に作られたものを見てみたら、ただおもしろおかしいだけの作品に仕上がっている。キャラクターや、その場所へのリスペクトが足りていないとそうなります。

それからもう一つ、私が作品を作る上でいつも心がけているのが“Intuition(直観力)”です。どうしてその作品を作りたい気持ちが生まれたかが大切です。他の真似する人たちも、この“Intuition”が足りない。ただのアイデアだけでは作れません。

――日本で作品を撮影するとしたら、どこか撮影場所を決めていますか?
決めていません。まだ「感じる」段階です。作品として「撮る」ために、「Dark Lensメガネ」をかけてもう一回あっちこっち見て回ろうかと。でももう歳をとっているから、以前よりもゆっくりしたい気持ちが強いですね。若い頃はもっとペースが速かったかもしれない。

――来月、いよいよスター・ウォーズの最新作が公開されますね。
もちろん観に行きます。けれど、すぐには行きません。「スター・ウォーズだからどうしても観に行かないといけない」という気持ちではない。私の作品も、スター・ウォーズのファンのためだけに作っているわけではありません。スター・ウォーズを知らずに、私の作品集を買ってくれる人もいます。でも、映画はもちろん観に行きますよ!

――スター・ウォーズのキャラクターで一番思い入れがあるのは誰ですか?
あまり特別な思い入れのあるキャラクターというのはいません。シリーズとしてはやはり最初のトリロジーであるIV・V・VIが好きですが。強いて言うなら、ハン・ソロに一番インパクトがありました。映画を見る多くの人は「ルーク・スカイウォーカーになりたい」と言い、「ハン・ソロになりたい」という人はなかなかいない。

ルークは、若くて、これからのヒーローという感じですね。対してハン・ソロは、もともとスピリットとしても悪い人。だけどユーモアもあって、お父さんみたいなイメージです。女の人のために頑張る、男らしい人ですね。チューバッカとコンビを組んでいますが、もともとの話ではチューバッカの方がリーダーになる予定だったそうです。だけど喋れないキャラクターはリーダーとして使い辛いので、結局は立場が逆転しました。そこも面白いなぁと。

――来場される方には、どんな気持ちで作品を見てもらいたいですか?
他人の気持ちをコントロールすることはできません。見る人に任せます。私はただ扉を開くだけです。その私が開いた扉の裏に私がいろいろセッティングした世界を見ていただければ。「本当の世界」というものは存在しません。誰の目にも世界は違った風に映っている。世界について考えた時点で、「本当の世界」というものは無くなってしまいます。「本当の世界とは、バカな人のためだけにある」という有名な言葉がある。頭を使わないといけない。一度、世界を「ダークサイド」にしてしまいましょう。闇の中を通らないと、光はわからない。ニーチェの名言にもあるように、「夜もまた一つの太陽」なのです。

――最後に、日本のファンに向けてメッセージをお願いします。
とにかく皆さん、来てください。そして何度でも足を運んで、楽しんでください。今日来てくださった方の中にも、「また来ます」と言ってくださった方がいました。次に来場されるときは、また別の新しい作品も見ていただければと思います。

また、私は日本の3DCGアーティストとコラボレーションすることにも興味があります。ただしアニメーションではなく、リアルな映像のクリエイター限定で。それから、英語ができないとダメです。

※※※ ※※※ ※※※

「世界を『ダークサイド』にしてしまいましょう」という言葉も飛び出したが、これは決して、ダース・ベイダーになってしまえという意味ではないそう。ダークサイドへの誘惑に打ち勝ったルークのように、光を得たければ必ず闇を通らなければならない。そう考えながら作品を見ると、彼の写真の中にこそ現実が広がっているようにさえ思えてくる。

実際にセドリックさんにお会いしてみて、自分の世界観というものを持った芸術家という印象を受けた。ジョージ・ルーカスから認められるのも納得である。本人からも「自分は『場所』のフォトグラファーだ」というコメントがあった。自分の芸術家としての役割をきちんと把握されているのだろう。自分が見たそのままの世界を相手に見せたい。決して誰かに媚びるためにやっているのではないという真摯な姿勢が垣間見えた。

また「スター・ウォーズのファンのためだけに作品を作っているのではない」とも話していて、本人はスター・ウォーズのファンではないのかと疑ってしまった。しかし、ただファンとしての気持ちを押し出し過ぎてしまうと、作品のバランスが崩れてしまう。そこで、「新作が公開されたら観に行くけど、すぐには観に行かない」と語るなど、絶妙な距離感を取っているのかもしれない。ファンと言うより、もはやスター・ウォーズは生活の一部なのだろう。

初めて「DARK LENS」作品を見たとき、一部の日常世界に架空のキャラクターが違和感なく存在していることに妙な印象を受けた。その一方で、とにかくもっと作品を見たいと、彼のサイトにアクセスしていた。カーボンで固められたハン・ソロが屋外に晒された「Carbonite, Lille & surrounding wastelands, 2007」は、どことなく哀愁が感じられる。また、夜の建設現場の前に佇むダース・ベイダーを写した「Darth Vader, Dubai 2009」は、エピソードVIで新デス・スターの製造を手下たちに急かせていた彼の姿と重なる。

セドリック・デルソーさんが繰り広げる「DARK LENS」の個展は、ディーゼル渋谷地下1階ギャラリースぺースにて2016年2月11日まで開催中。入場は無料なので、ショッピングのついでにでも、その新しい世界に足を踏み入れてみてはいかがだろうか。

※この記事は、情報サイト「イベニア」編集部(取材/平原学)が執筆したものです。同編集部の許諾を得て掲載しています。

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