トルシエ“日中サッカー”語る「中国は日本より20年遅れている」。

2013/06/10 10:59 Written by Narinari.com編集部

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2002年日韓W杯で日本代表をベスト16に導いた、フランス人監督のフィリップ・トルシエ氏。現在同氏は中国・深セン(広東省)を本拠地とするプロサッカーチーム、深セン紅鑽足球倶楽部を率いて3シーズン目を迎えている。このたび、そんなトルシエ監督をナリナリドットコム中国特派員が直撃。中国サッカーの躍進について話を聞いてみた。

ここ数年、日本勢はACL(アジアチャンピオンズリーグ)で苦戦している。今年も柏レイソルこそグループリーグ突破を果たしたものの、残りの3チーム(サンフレッチェ広島、浦和レッズ、ベガルタ仙台)はグループ敗退。一方、中国勢は広州恒大と北京国安の2チームが突破しており、日本勢のレベル低下を危惧する声も聞くようになっているが――。

「確かに中国サッカーはACLの結果だけを見れば、強くなっている印象を受けます。ただ、日本と中国でともに指導経験がある私からすれば、まだ日本のほうが強いと感じます。中国サッカーは“日本サッカーと20年の差がある”印象です。その理由としてあげられるのが、下部組織の育成文化が育まれていないことにあります。中国スーパーリーグの広州や北京といった強豪チームを除けば、若い選手が育つ土壌がまったくと言ってよいほどない。そうした意味で、中国のサッカーチームは“チーム”であって、まだ“クラブ”という存在に至っていないのです。中国サッカーの将来性には疑問符がつきます」。

――では、それでも中国のチームがACLで好成績を残すようになっているのはなぜなのでしょうか?

「ACLで中国チームの躍進が目立つようになっているのは、外国人補強選手の存在にほかなりません。中国のチームは豊富な資金力で強力な外国人選手を次々と入団させています。そうした選手の活躍があるからこそ、強くなっている印象を与えるのです。逆に言えば、強力な外国人選手がいなくなったり、資金が調達できなくなったりした場合、またすぐに弱くなる可能性があります」。

――理由はそれだけなのでしょうか?

「あとは、組み合わせの問題もあります。これも重要です。国内リーグ戦と異なり、ACLのような国際大会では、どのチームと同じグループになるかが、結果を大きく左右します。チーム同士の相性もあるでしょう。サッカーは“11人対11人”で戦うスポーツです。総合力で言えば、今でも日本のクラブのほうが強い。ただ、先ほども言ったように、11人の中に強力な外国人選手が数人いた場合、総合力ではない部分で勝負が決まることもあります」。

――そうなると、結果が安定しなさそうですね。

「はい。中国のチームは下部組織が育っていないので、“今年は強くても来年は弱い”というように、安定した結果を残せない可能性があります。また、中国サッカーは“ビジネスアプローチ”が強過ぎる、ということも問題です。欧州でも有名選手を取り巻く状況は同じですが、中国の場合、有名でもない、まだ実力が備わっていない若い選手も“ビジネス”の対象になる。そこでお金を得ようとする強い力が働き、結果として若い選手が育ちにくい環境を作り上げているのです」。

――現在の日本代表についてはどうでしょうか。あなたが率いていたときと比べて、レベルはどうでしょうか?

「私が率いていたときと今では、やはり選手個人個人が違うので、単純に強さを比較することはできません。ただ、私が監督をしていたときは、海外で実際に活躍している選手と言えば、中田(英寿)と小野(伸二)ぐらいだった。それが今やほとんどの代表選手が海外でプレーしています。個人個人の実力を比べた場合、当時とたいした差はないかもしれません。ただ、この“経験の差”がサッカーにはとても重要だと思っています」。

なお、トルシエ氏は6月4日の豪州戦を埼玉スタジアムで観戦。試合後、中国のスポーツメディアの取材に「日本がW杯出場を決めたのは良かったが、試合内容はイマイチだった」とコメント。

また、今年のACLで日本勢が苦戦していることを指摘された際には「(日本チームは)中国チームのようにお金で強力な外国人選手を獲得できない状況があり、確かにうまくいっていない部分もあるが、忘れてはいけないのは、日本人選手の能力は高く、また、若手育成の面でも中国よりはるか先を行っているということだ」とはっきり意見を述べており、今回のインタビュー内容が決して日本メディア向けの“リップサービス”ではないことが理解できる。

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