山中氏と合同受賞者の“偶然”、Gurdon氏「すごいことだと思わない?」。

2012/10/10 13:45 Written by

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スウェーデン・カロリンスカ研究所のノーベル賞選考委員会は10月8日、山中伸弥氏(京都大学iPS細胞研究所 50歳)とJohn B. Gurdon氏(英・Gurdon研究所 79歳)の2人が2012年のノーベル生理学・医学賞を受賞したと発表した。日本人の受賞は1987年の利根川進氏以来、2人目となる。合同受賞となった2人の受賞理由は「すでに分化・成熟した細胞を、多能性を有する状態にリプログラミング(初期化)できることの発見」。山中氏の受賞は約2年前から予想されていたが、ついに実現した。そんな山中氏とGurdon氏には「めったにない偶然」も起こっていたという。その偶然とは…?

◎iPS細胞樹立から6年で受賞

ノーベル賞選考委員会の合同リリースによると、Gurdon氏は、すでに分化した細胞のゲノムでも、あらゆる組織への分化に必要な情報が含まれているとの仮説を提唱。成熟したカエルの卵子の核を取り除き、オタマジャクシの小腸核細胞に置き換えた実験で生殖機能を持つクローンの作成に成功し、1962年に論文報告した。それ以前にも同様のコンセプトで実験が行われていたものの、成功には至っていなかった。そのため、同氏の初の証明は当時、科学界で懐疑を持って受け止められたと紹介されている。

しかし、同氏の仮説は他の科学者らによっても証明され、97年の羊のドリーの誕生で哺乳類でも同様の現象が起こることが証明された他、胚性幹細胞(ES細胞)の樹立にもつながった。81年にマウスのES細胞を世界で初めて樹立したMartin J. Evans氏らは、07年に同賞を受賞している。

Gurdon氏の共同受賞者となった山中氏は、06年にマウスにおけるiPS細胞の樹立に成功。公式リリースでは同氏の業績について「それまでに同定されていた細胞の初期化に関わる幾つかの遺伝子のうち、4つを同時に導入するという“驚くほどシンプルなレシピ”でマウスの線維芽細胞を未分化の幹細胞に初期化することができた!」と感嘆符入りで伝えている。

Evans氏らがES細胞を樹立してから受賞まで26年、Gurdon氏が仮説を証明してから今回の受賞までは50年を要した。一方、山中氏の功績から今回の受賞までの期間は6年。ここからも、iPS細胞の登場がいかに再生医療の研究進展に大きなインパクトをもたらしたかがあらためてうかがい知れる。

さらに、受賞のリリースと同時に発表された「Scientific Background」によると、iPS細胞樹立から3年足らずの2009年頃から、世界中のグループがさまざまな病気の病態モデルなどを確立したことを示す論文が20報近く挙げられており、研究スピードが加速している様子が分かる。

特に、昨年から今年にかけては、遺伝性の病気や神経変性疾患などの患者から分離した細胞を使って試験管内で患者のiPS細胞がどのように変化しているのかを調べることで、病態の解明や薬剤の開発に役立てようという研究も盛んになっていることも紹介されている。

◎Gurdon氏の「細胞の初期化」成功年に山中氏誕生

山中氏は先月に50歳の誕生日を迎えたばかり。なんとGurdon氏が細胞の初期化を証明した年は山中氏が誕生した年でもあったのだ。

受賞直後のノーベル委員会関係者との電話インタビューでこの点を指摘されたGurdon氏は、笑いながら「面白いでしょう? いや、というよりそれってすごいことだと思わない? めったにない偶然だよ」と応じている。また、山中氏がこの結び付きを非常に大切に考えていると、同委員会関係者に伝えていたことも紹介されている。

※この記事(//kenko100.jp/news/2012/10/09/01)は、医学新聞社メディカルトリビューンの健康情報サイト「あなたの健康百科」編集部(//kenko100.jp)が執筆したものです。同編集部の許諾を得て掲載しています。

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