風疹は出産・育児世代の感染症、国立感染症研究所の多屋馨子氏に聞く。

2012/08/21 13:25 Written by

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風疹(三日はしか)が全数報告となった2008年以来の大流行を記録している。今年初めから先週までの報告数は1,000例を超えた。風疹は過去に5〜6年ごとの大きな流行を繰り返しているが、今回の流行は昨年、複数の地域の職場で起きた30〜50歳代の男性が中心の集団発生に端を発しており、国や自治体が積極的に対策を呼び掛けている。「風疹の流行は2〜3年連続して起こることが多く、1年目より2年目の方が規模が大きいというこれまでの流行の傾向と同じ」と指摘するのは、国立感染症研究所感染症情報センターの多屋馨子氏。同氏は、風疹は今や「出産育児世代の感染症」で、ワクチン接種による感受性者の積極的な減少対策が進まなければ、来年も同様の流行が起こる可能性があると警鐘を鳴らす。

◎「かかって当たり前」の時代は終了

感染研の調査によると、2008年の風疹患者の年齢分布は乳幼児や小児が中心だったが、昨年の報告では30歳代をピークに20〜50歳に幅広く分布している。幼児期と中高生への麻疹(はしか)・風疹混合(MR)ワクチンの2回接種導入によって子供がかかりにくくなったことから、風疹は「出産・育児世代の男性に多い感染症」(多屋氏)という。

2011年の調査からは、30〜50歳代前半の男性で風疹に対する抗体を持っていない人の割合が最も多く、次いでMRワクチンの2回目が未接種の第3期(中学1年生相当)と第4期(高校3年生相当)の男女で抗体を持っている割合が低いことが明らかになっている。

「30〜50歳代前半の男性の5人に1人が抗体を持っていない状態。地域による差はありません」と同氏。今年の流行も、昨年起きた職場での風疹流行が抗体を持っていない人の間で再び広がっているためと分析している。今回、全国の約半数の都道府県で患者が報告されているが、どこで流行が起こっても不思議はないという。

◎1990年以前生まれはワクチン接種を

風疹は一般に重篤な状態にならないとされているが、成人でも脳炎や関節炎の発症例があるほか、妊娠初期の風疹ウイルス感染による胎児の先天性風疹症候群のリスクが高まる。風疹も先天性風疹症候群も有効な治療法はなく、ワクチンによる予防しか手段はない。

しかし、妊娠する可能性のある女性だけがワクチンを接種しても、周囲の人々に抗体がなければ風疹の地域的な流行は抑えられず、先天性風疹症候群の発生も防げない。というのも、母親が風疹にかかったことがあったり、ワクチンを受けいたりしても抗体が不十分な場合があるためだ。

日本では1977年に女子中学生を対象に風疹ワクチンの定期接種が導入されたが、状況に応じて接種制度が変更されてきた。1990年4月1日以前生まれの人は全く接種していないか、接種したとしても1回のみ。そのため、職場などで妊娠の可能性がある女性や妊婦に接触することのある20〜50歳代の男性は、特に注意が必要だ。多屋氏は「機会を作ってMRワクチンを受けてほしい」と要望する。

◎手洗い・うがいでは予防できない

今回の風疹流行の初期には「妊婦は感染に注意」「手洗い、うがいなどの予防策を」といった報道が見られたが、妊娠の可能性がある女性や妊婦はワクチンが受けられない。また、「手洗い、うがいは一般的な衛生習慣として大事ですが、風疹の予防策ではありません」と多屋氏。風疹ウイルスの感染力の強さは麻疹ウイルスのおよそ半分で、インフルエンザウイルスよりも強い。

同氏は「風疹ウイルスは飛沫(ひまつ=せきやくしゃみなどによって飛散する体液の粒子)によって感染するので、理論的には半径2メートル以内にいる人にしか感染しません。しかし、風疹の症状ははっきり出ないことも多く、職場や家庭で2メートル以内の距離の“濃厚接触”は日常的にあることです」と、一般的な感染予防策だけでは十分とはいえないと指摘する。

これらのことからも、妊娠している、あるいはその可能性のある女性が自分だけで風疹ウイルスの感染に注意することはほぼ不可能だろう。同氏は「妊婦さんの同居家族は今すぐにワクチンを受けてほしい。妊婦さんも家族にぜひ受けてもらうようお願いしてください」と強調する。

※この記事(//kenko100.jp/news/2012/08/17/01)は、医学新聞社メディカルトリビューンの健康情報サイト「あなたの健康百科」編集部(//kenko100.jp)が執筆したものです。同編集部の許諾を得て掲載しています。

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