エコノミー症候群神話を否定、エコノミー席や水分摂取不足は根拠なし。

2012/08/15 01:37 Written by

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太ももや膝などの静脈に血の塊(血栓)ができる深部静脈血栓症。血流に乗って血栓が肺の動脈で詰まると呼吸困難を引き起こすほか、最悪の場合は死亡することもある。“エコノミークラス症候群”とも呼ばれているこの病気だが、米国胸部医学会が改訂した診療ガイドライン(「CHEST」2012; 141: 2 supple)では、深部静脈血栓症の危険因子として経口避妊薬の使用や窓側席の利用、高齢、妊娠などを挙げる一方、エコノミークラス席を利用することで引き起こされるという説を支持する確固たるエビデンス(科学的根拠となる研究結果)は存在しないとして、いわゆる“エコノミークラス症候群神話”を否定した。

◎水分摂取不足も除外

深部静脈血栓症は、長時間同じ姿勢でいることが原因の一つ。列車やバスなどに乗っていても発症する可能性があるが、座席が狭くて長時間搭乗する旅客機のエコノミークラス席を利用した場合、発症する確率が高いとされていた。

今回のガイドラインの共同著者で、カナダ・マックマスター大学医学部のMark Crowther氏は「エコノミークラス席の利用自体が長距離飛行による深部静脈血栓症リスクを上昇させることはないが、長時間同じ姿勢を取り続けるとリスクは上昇する。窓側席で長距離を飛行すると深部静脈血栓症リスクが上がるのは、動ける範囲が制限されるからで、この他にも危険因子があるとリスクはさらに上昇する」と述べている。

長距離飛行により深部静脈血栓症を含む静脈血栓塞栓症を発症することはまれだが、ガイドラインでは、長距離飛行で静脈血栓塞栓症リスクを上昇させる因子として、

・静脈血栓塞栓症や栓友病にかかったことがある
・がん患者
・搭乗前の手術やけが
・同じ姿勢を続けること
・高齢者
・女性ホルモンのエストロゲン使用(経口避妊薬を含む)
・妊娠
・窓側席の利用
・肥満

を挙げている。その一方で、水分摂取不足や飲酒、あるいはエコノミークラス席の利用(ビジネスクラス席との比較)により長距離飛行中の静脈血栓塞栓症発症リスクが上昇することを示す確固たるエビデンスは存在しないと指摘した。

◎予防法は「頻繁に歩き回る」「ふくらはぎのストレッチ」など

ガイドラインは、静脈血栓塞栓症のリスクが高い旅行者が6時間以上のフライトを利用する場合、

・頻繁に機内を歩き回ること
・ふくらはぎのストレッチ
・可能な限り通路側の席を確保すること
・膝下の弾性ストッキング(圧迫力の強い医療用ストッキング)の着用

を推奨。静脈血栓塞栓症の予防目的でアスピリンや抗凝固薬を使用すべきではないとした。ただ、リスクが特に高い患者では、個々の患者ごとに投薬の是非を考慮すべきとしている。

Crowther氏は「飛行機旅行と静脈血栓塞栓症の関連は、8〜10時間を超えるフライトで最も強くなる。長距離飛行後に同症を発症する乗客の多くは、1つ以上の危険因子を持っている」と解説している。

※この記事(//kenko100.jp/news/2012/08/10/02)は、医学新聞社メディカルトリビューンの健康情報サイト「あなたの健康百科」編集部(//kenko100.jp)が執筆したものです。同編集部の許諾を得て掲載しています。

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