「フランスパン自販機」を試す、3分足らずで焼き立てのフランスパン。

2011/08/17 14:47 Written by Narinari.com編集部

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先日、仏紙フィガロで“フランスパンの自動販売機”を発明したパン屋が紹介され、フランス国内でも話題を呼んでいる。発明したのは50代のベテランパン職人ジャン=ルイ・ヘクトさん。彼は2001年にドイツにほど近い場所にある工業高校と共同で最初の自動販売機のプロトタイプを作成し、その後ポルトガルのメコンディエル社と共に、自動販売機の製品化を実現した。製造費を除いた開発費はすでに3万ユーロ(約330万円)を超えており、1台製造するのに250時間を要するという、大がかりなプロジェクトだ。

1号機は今年1月、フランス北東部モゼル県に設置され、気温差の激しい地方で焼き立てのパンがいつでも手に入ると大好評だったという。そしてこの8月、数多あるライバルのパン屋がバカンスを楽しんでいる間隙を縫って、パリに2号機が設置された。フランスならではの“フランスパンの自動販売機”は、いったいどのようなものなのか。ナリナリドットコムのフランス特派員が早速様子を見に行ってみた。

パリの公園でも人気のあるビュットショーモン公園そばに置かれた“フランスパンの自動販売機”は、業務用の冷蔵庫を想起させる大きさと色合いでひっそりと置かれていた。フランスの自動販売機には珍しくスクリーンが採用され、価格と、オーブンや冷凍室の温度、パンのストック状況などを画面で説明している。

価格は1ユーロ(約110円)。名店と呼ばれるパン屋並みの価格のため、少し高いと感じる人もいると思われるが、一方でお釣りなどの煩わしさがない(=1コインで済む)ことを考えれば、十分許容できる価格設定のように感じられた。

1ユーロを入れると、自動販売機はすぐに動き始める。出来上がりまでの時間は「3分足らず」と表示されたが、動作音もなくとても静かで、いまパンが焼かれているとは外からではわからない。そして焼き上がると、取り出し口にパンがぽんと現れる。自動販売機に用意されたパンを入れる袋には“トラディショナル(伝統)”と書かれ、ヘクト氏の目指したモダンと職人仕事の融合を端的に示しているようで面白い。

パンを持つと、その売りである温かさが確かに感じられる。とても温かいが、普通のパン屋で焼き立てを買ったときのような、パンそのものに熱がこもった感じではなく、熱がすぐに逃げていくような温かさだった。表面は少し気泡が見えたが、中身は至って普通のフランスパンだ。

実際に食べてみると、外側はそれほど硬くなく、ぎりぎりのパリッとした食感。中身はモチモチとしていて、どこに行ってもフランスパンと認定される噛み応えだ。また、噛み続けていると、わりと柔らかめであることから、サンドイッチなどに向いているような印象を受けた。

肝心の味のほうは、まず、温かさで“3割増し感”はある。酸味や塩味についてはそれほど個性はなく、素晴らしいわけではないが悪くもない、無難にまとまったフランスパンといったところか。

一点気になったのは、焼き立てであることが売りのひとつであるにも関わらず、思いのほか冷めやすいこと。夏のパリでそうであることを考えると、冬場はまた違う印象を持つかもしれない。しかし“フランスパン”の名に十分相応しい出来映えなのは間違いないだろう。

フィガロ紙によれば、ヘクト氏はこの自動販売機で大きな展望を描いているという。彼はこの自動販売機の特許で得られる利益より、どんな場所でも、それがたとえ砂漠のような場所であっても、世界中のフランスパンを愛する人たちの手に毎日焼き立てのパンが届くことを願っているそうだ。

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