“村上隆氏に抗議デモ”実際は…? ベルサイユ宮殿の作品展に行ってみた。

2010/09/15 18:59 Written by Narinari.com編集部

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フランス主要新聞の1つ、フィガロ紙の一面と文化面2面も飾った、現代美術家・村上隆の作品展「Murakami Versailles」。日仏の事前の報道やネットでは、「ベルサイユ宮殿での展示にその作風が合わない」と、「抗議デモが行われた」等々のやや扇情的、かつ批判的な評価が下されていたが、実際のところはどうなのかを確かめるべく、ナリナリドットコムのフランス特派員が現地を訪れてみた。    

◎館内の様子

いつものように世界各国からの旅行者が行列するチケット売り場では、今回の展示に関する小さなパンフレットを配布していたが、受け取る人はまばら。観光客は村上隆の展示が始まったということをほとんど知らないのかもしれない。

館内に入り、会場のスタッフに村上隆の作品に対する印象を聞いてみたところ、当然かもしれないが、皆一様に高い評価をしていた。また、館内では幾つかの報道陣がそれぞれインタビューを行っており、欧米系の人たちは建前の使い方が非常に上手いとはいえ、ベルサイユ宮殿と村上隆作品のギャップを楽しんでいる様子だった。

むしろ戸惑っていたのは、日本人やアジア系の観光客。恐らく彼らにとってはベルサイユ宮殿のような西洋の絵画に囲まれた王宮という非日常的なものと、村上隆作品から感じる“日常的なもの”との齟齬が、どちらも非日常である欧米人とは比べものにならないことから来る戸惑いだったのかもしれない。

展示を見に来た人々へのテレビのインタビューの最初の問いかけは、「Choquez-vous ?(ショックですか?)」というものが多かった。フランス語で“ショック”は、どちらかというと“怒り”を持った、「感情を害しましたか?」というニュアンスだ。

作品の展示自体はベルサイユ宮殿の荘厳な雰囲気とのギャップに違和感はあるものの、批判されていたような、村上隆の代表作でもある性的なものを連想させる作品は一切無く、本人と愛犬ポムのフィギュアをはじめ、河童や等身がデフォルメされたものが多い。


◎抗議運動、実際は…

開場日である14日は展示に反対する団体「Versailles mon amour」の抗議運動が行われ、メディアにとっては格好のネタだったが、その多くは肩すかしを食ったことだろう。

一部報道では「100人規模」と伝えられていたが、実際には10人にも満たない、少数の育ちの良さそうな老人たちによる、デモというにはあまりにもほど遠いものだ。苛烈さのないもので、「極右」というよりはむしろ伝統主義者、せめて国粋主義団体とでも訳したほうが誤解されないのではないかとの印象を受けた。やや演劇がかった陳情、というのが実際のところだ。

代表の家族でもあるブラッシーさんは、とても柔らかに話す“おじいちゃん”で、「このベルサイユモナムールという名前はヒロシマモナムール(邦題『二十四時間の情事』)から取っているくらい、本来我々は日本について尊敬と愛情を持っているんだ。村上氏の作品についても嫌いというわけではない。我々はこの場所を愛していて、彼の作品はこの場所に合わないと考えているだけなんだ」と、報道陣向けに“抗議運動”を行う20分前に、そう話してくれた。

挑発、扇動的な報道が多かったものの、実際に出かけて受けた印象との落差は大きい。善し悪しの評価は人それぞれだが、この場所そのものには、争いや諍いを生むものはそれほどないと感じた。事前の報道や話題作りを含めて村上氏の“作品”だったのかもしれない。

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