経営者が語る中国サウナ事情、競争の激化や若い従業員の早期退職が悩み。

2010/07/03 11:51 Written by Narinari.com編集部

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中国で“大人の娯楽場”として多くの人に親しまれているサウナ。中国語でサウナは「桑拿」と書き、休憩室とシャワールーム、マッサージ室のみが備え付けられた簡易サウナから、大浴場や蒸し風呂、垢すりルーム、マッサージ室、レストラン、ミニシアター、ジム、ヘアサロンなど、ありとあらゆる施設が備え付けられた超高級サウナまで、実に幅広く揃っている。中でも東京都とほぼ同じ面積(1952.84平方キロメートル)内に数千軒のサウナが林立することで知られる広東省深セン市は、その規模やサービスの質において中国大陸内では群を抜いており、中国随一のサウナタウンとしてその名を轟かせている状況だ。今回、ナリナリドットコム中国特派員は深センのある高級サウナの経営者を直撃。中国のサウナ事情についてお届けする。

お話を伺ったのは、深セン在住の日本人から“深センの秋葉原”と呼ばれる華強北駅から、徒歩数分の距離にある高級サウナ「皇馬都會」の経営者。約7,000平米の大きさを誇るこのサウナは、従業員数も数百人に及ぶ。煌びやかなネオンに包まれたゲートをくぐり、エレベーターで5階に上がれば、紫色のドレスで着飾った女性たちが満面の笑顔で迎え入れてくれる。

今年55歳になる馬清隆董事長は広東省潮州市生まれ。潮州市は歴史的に数多くの華僑を輩出しており、浙江省温州市同様、中国の国内では商才に長けた人物が多いとされる土地柄だ。馬氏は1980年に香港籍を取得、香港で開業した小さな薬屋から商売の一歩を踏み出し、財を成した苦労人である。

馬氏が薬屋経営でコツコツと貯めたお金をもとに、同郷の友人3人とともに現在の会社「皇馬都會娯楽有限公司」を立ち上げたのは1999年のことで、初期投資金額は約500万元(約6,500万円)。「皇馬都會」は同社2軒目のサウナとして2004年に誕生した(1軒目は会社設立とともに営業を始めた「月光城」。現在は3軒のサウナを運営している)。馬氏によると、会社が設立された1999年当時は、深センにはほとんどサウナはなく、ある意味“サウナの先駆け”的な存在だったという。ちなみに、深センにある現存のサウナの中でも、特に古くからあるサウナとして知られているのは、深セン市羅湖区の「熙龍閣」(現在は福田区に移転)だ。

中国のサウナ文化は、もともとは香港から入ってきた。深センと香港は隣接しており、それだけ人の往来も多い。香港人が深センのサウナを訪れれば、香港よりも格段に安い料金で、同等あるいはそれ以上の質のマッサージを受けることができる。土地が狭い香港のサウナに比べれば、深センのサウナは施設自体が広く豪華。一週間の疲れを溜め込んだ香港人が毎週末のように深センを訪れ、サウナで心身ともにリラックスさせることは貴重な娯楽となっている。そして、波のように押し寄せる香港人のニーズに答えるために、深センのサウナは進化を続けてきた。

馬氏は会社設立当時を振り返り、「昔はサウナの料金は本当に高く、今のように一般人が入れる場所ではなかった」という。しかし、2002年から2003年頃にかけ、深センでは次々とサウナがオープンし、競争が激化。次第に価格が下がっていき、店によっては誰もが気軽に入れる価格帯まで落ちたそうだ。そして現在、深センでは数千軒のサウナがしのぎを削るとともに、金融危機などの外的要因も重なり、閉店数が新規開店数をはるかに上回るという、激しい生存競争が繰り広げられている。

「皇馬都會」は現在、平日は1日400〜500人、週末は700人程度の来客があるそうだ。それでも馬氏は「昔に比べると経営が厳しい」とため息を漏らす。同サウナでの一人当たりの平均消費額は135元程度(店が定めている一人当たりの最低消費額は109元)であるため、単純に400をかければ1日の売上は最低でも54000元(約70万円)となるが、馬氏を悩ましているのが急速に上がり続ける物価、従業員の給与だ。

中国沿岸部の大都市では今、一人っ子政策や内陸部の発展などの影響により、深刻な人手不足に陥っているが、その影響はサービス業分野にも確実に現れている。言うまでもなく、人手不足は給与高騰につながり、経営を圧迫する。

また、物価上昇や給与高騰だけでなく、せっかく採用した人材が次々と辞めてしまうことも、馬氏の悩みの種だ。馬氏曰く、かつては田舎から出てきた人材は忍耐強く、お金のためにはがむしゃらになって働く傾向があったというが、最近は「給料日前でも辞めてしまう人材がいる」とその変化に驚く。そのため、一人でも多くの人材を辞めさせないために、彼らへの指導の仕方にも細心の注意を払っているという。「90年代生まれは本当にちょっとしたことで辞めかねない」。自身も出稼ぎ労働者から始め、彼らへの理解も深いと感じていた馬氏にとっては、信じがたい現象に感じられるのかもしれない。

馬氏に今後のビジネスについて尋ねたところ、笑いながら「特に何も考えていない」という南方らしい大らかな答えが返ってきた。ただ、「日本人がサウナを深センに開けるかどうか」という質問には、先駆者としてアドバイスをくれた。馬氏は「本当に深センのサウナは飽和状態。これから開くならば内陸部ですよ」と言い、そして内陸部にサウナを作る場合は地元に詳しいパートナーを見つけることを推奨する。

「この業界は一筋縄ではいきません。資格取得自体も難しいですし、いろいろな人間関係も要求されます。外国人にとっては本当に難しいと思います。正直、あまりおすすめしませんが、最低限、地元に詳しいパートナーは作って下さい。中国ではある土地に詳しいからといって、別の土地でも成功できるわけではないのです」。

もし仕事や観光で深センを訪れる機会があったら、中国広しと言えども“深センならではの楽しみ”とも言える高級サウナを体験してみてはいかがだろうか。


☆高級サウナ「皇馬都會」
住所:中国 広東省深セン市福田区福虹路世界貿易広場5階
最低消費額:109元(1人)

マッサージ代(午前7時〜午後18時):
中式マッサージ79元(2時間)、タイ式マッサージ89元(2時間)、日式マッサージ109元(2時間)※すべてドリンク1杯、果物付き

マッサージ代(午後18時〜午前7時):
中式マッサージ109元(2時間)、タイ式マッサージ135元(2時間)、日式マッサージ160元(2時間)※すべてドリンク1杯、果物付き。また、足マッサージ、脚マッサージ、頭部マッサージ、耳かき等から1項目を無料サービス(チップ別)

カラオケ代:部屋代80元(1時間)

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