本物の囚人が運営するレストラン、英法務省お墨付きで刑務所内にオープン。

2009/07/06 16:37 Written by Narinari.com編集部

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どんな罪を犯したにしても、刑務所に入った犯罪者に対する一般市民の目は厳しい。日本では先日、仮釈放者が入所して自立を促す「自立更生促進センター」が、国営としては初めて北九州市に開所したが、地元住民は再犯に対する懸念や治安の面から、反発の声も大きいという。市民にとって犯罪者への疑念は簡単に払拭できるものではないが、一方で社会の側も、犯罪者の社会復帰に高い壁を作ってしまっているのは事実だろう。

こうした問題は日本だけでなく、どの国でも見られる問題だが、英国のある刑務所では、犯罪者の社会復帰を目的にしたある計画が5月にスタートした。なんと、シェフやウェイターなど、囚人によって運営されているという画期的なレストランがオープン。刑務所内を模したレストランの存在は聞くが、こちらは本物の囚人がサービスを提供するとあって、「世界で唯一のレストラン」(英紙デイリー・ミラーより)と、英メディアも高い関心を寄せている。

このレストランは、英サリー州のハイ・ダウン刑務所に、今年5月11日にオープンした「ザ・クリンク」。ロンドンの高級フランスレストラン「ミラベル」でシェフを務めた、Alberto Crisci氏が「囚人の社会復帰を目的とした、革命的な計画」として発案し、刑務所側も同調した。英紙デイリー・メールによれば、開店資金は刑務所側が30万ポンド(約4,700万円)を拠出、さらにCrisci氏も運営に向けて私財を投入。英紙インディペンデントでは、元サッカークラブ経営者の援助も得て、総額55万ポンド(約8,600万円)をかけて開店したと伝えている。

囚人が店員を務めるとあって、レストラン内では細心の注意が払われているのはもちろんのこと、厳密な管理のもとに運営されているようだ。このレストランで働けるのは典型的な模範囚で、行動はキッチン内からCrisci氏が常に監視。一般客への接し方については「いかなる間違った行動も許されない方針がクリンクにはある」とCrisci氏は話している。厳しく管理されるのは客も同じで、レストランの訪問には勤務先の承認と、機密事項取扱い許可を得る必要があるという。

さらに、安全管理は食器にも及び、素材は全てプラスチック。当然ナイフもプラスチックで、「肉の筋を切るのは、ちょっとした挑戦だった」(デイリー・ミラー紙より)そうだ。筋を切るのは苦労したようだが、インディペンデント紙は「幸運にもステーキは柔らかかった」と評している。また、パンに使われるイースト菌もアルコールの製造が可能として、囚人が持ち出さないよう徹底管理。店員を務める囚人に、かなり厳しいルールを課している。

気になるのはそのお味だが、有名シェフのCrisci氏が協力しているとあって、「出される料理は良質」とCrisci氏自身も胸を張る。野菜は刑務所内の農場で栽培したものを使い、パスタは手製と本格的。しかも4.5ポンド(約700円)で「ミニッツステーキにチップス、サラダの付け合わせ」などが食べられることに、デイリー・メール紙は「同程度のレベルのレストランに比べれば破格の値段」と、驚きをもって伝えている。

そんなレストランを取り仕切っているのも、かつて麻薬密売で収監された元囚人の2人(ディーン・マスターズ氏とフランシス・マルティネス氏)だ。調理長を務めるマスターズ氏は「多くの受刑者は、釈放されてもサポートがなく、再び罪を犯してしまう。このプロジェクトはそのサイクルを壊す機会を与える」と、レストラン運営の意義を語る。また、マルティネス氏も「プロジェクトは受刑者に生命を取り戻す」と話すなど、店員を務める囚人たちがやりがいを感じている様子を伺わせる。

レストランは、プロジェクトを支援する企業関係者も多数訪れ、人気を集めているという。いろいろと制約は多いが、英国の有名フレンチレストランとして認知される日も、そう遠くないかもしれない。

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