偽のバス停が心に落ち着きを取り戻す? アルツハイマー治療に新しい試み。

2009/06/03 23:45 Written by Narinari.com編集部

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映画やTVドラマの重要なシーンに「バス停」が使われることが多い。例えば映画「となりのトトロ」で、メイとサツキがお父さんの帰りを待つシーン。また、「フォレスト・ガンプ」で、主人公が見知らぬ人に自分の人生を回想して語っているシーンや、不安定な女子高生を描いた「ゴーストワールド」でも、ラストシーンで不安定な少女の「旅立ち」の出発点としてバス停が使われている。どの映画でもバス停は、どこかノスタルジックでセンチメンタルな余韻を残す場所として、効果的に使われているようだ。

そのバス停がいま、アルツハイマー病患者の治療の一環として利用されているという。

英国北東部の港町、ミドルボローの高齢者施設「クリーブランド・ビュー・ケア・センター
」の建物内の2階には、ひとつの「町」が形成されている。映画館、パブ、保育所、レトロな内装の喫茶店、そして美容室といった“模擬公共施設”が建ち並び、入居者の寝室ドアも、彼らの家の玄関がそっくりに再現したものだ。

「アルツハイマーを患う人々にとって、特徴がない長い廊下が続くようなスペースは、混乱してしまうだけでなく、刺激のなさから長時間の徘徊を招いてしまうこともあるのです」

同施設のケア・マネージャーであるオデット・クロフォードさんは説明する。以前住んでいた生活パターンを取り戻し、入居者に落ち着きを取り戻してもらいたい、という狙いから、施設内に社会スペースである「町」を再現したわけだ。映画館ではクラシック映画が上映され、パブではゲーム大会などが開かれ、喫茶店では飲み物も楽しめる。住民同士のコミュニケーションが増えるようにデザインされているのだ。

この試みはもともとはドイツで始まったもの。英国ではまだあまり認知されていないが、同施設を経営するボンドゲート社では、同国のパイオニア施設としてミドルボローのセンターを改装することにしたそうだ。入居者の反応は上々で、住民同士の会話も増え、忘れていた過去の想い出を取り戻し、表情にも落ち着きが戻っている人々が多いという。

そして、特にクライアントの心に安らぎを与えているのが、この“町内”に設置されたバス停だ。「家に帰りたい」「家族に会いたい」。そうくり返して落ち着きがない入居者がこのバス停で待っていると、本当に家に帰れる気がしたり、家族がバスに乗ってやってくる気がするのであろう。錯覚ではあるが、次第に彼らの心に「安心感」が戻ってくるそうだ。

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