イジメと戦った少年の逮捕は人種差別? 同級生ら400人が抗議のストライキ。

2009/05/01 21:17 Written by Maki K Wall@駐米特派員

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「自分の身を守るために、ほかに方法がない時にしか争ってはいけない。そして戦うなら、左手のみ。利き手の右は絶対に使わないこと」。少年の父親は常にこう諭しながら、彼にテコンドーの特訓をしていたそうです。

この15歳になる少年は、数年前に家族とともに韓国からカナダに移住してきました。トロント北部にあるオンタリオ州ケスウィックという小さな町に住み始めたのですが、ここの住民はほとんどが白人。アジア系はあまりいないそうです。いま、少年が通っている高校もアジア系の生徒は10人にも達しません。そして残念なことにマイノリティである彼らは、イジメのターゲットにもなりやすかったのです。

ある日の体育の時間。白人の生徒が少年に向かって人種差別的な悪口を叫びました。彼に近寄るとケンカ腰になり、肩もぶつけてきます。それでも少年は父親の“教え”を守って、手出しをせずに黙っていました。

しかし、今度は顔をめがけて殴りかかってきたのです。このままではケガをしてしまう。とっさに少年は左手で応戦しました。

少年の父親は、韓国でナショナル・チームと一緒にトレーニングを受けた経験を持つテコンドーの達人。その息子である少年も、すでに黒帯を持っています。たとえ左手といっても、その一撃はとても素人には交わしきれるものではありません。見事に相手の鼻に命中したのです。

ところが、駆けつけた警察は少年だけを逮捕しました。そして学校からは停学処分を受け、さらにこのまま行くと放校処分も確実に。少年は家族とともにほかの町に移り住まなければならないという状況にまで追い込まれてしまったのです。

でも、このケンカは白人の生徒が吹っかけてきたもの。最初に手を出したのも白人の生徒で、たとえ結果的にケガをさせてしまったとしても、少年には「正当防衛」が適用されそうなものです。「この処分には人種差別が絶対に絡んでいる」。そう感じたのはマイノリティの人々だけではありませんでした。

ケンカの日から1週間ほど経った先日、少年の通う高校の生徒有志が計画して、なんと400人の生徒が一斉に授業を放棄して校庭に集まり、そこで人種差別の絡んだ陰湿なイジメや、大人たちがしている不公平な人種差別に対して、ストライキを始めたのです。もちろん、そのほとんどは白人の生徒たち。

この行動は地元のニュースでも大きく取り上げられ、それがさらにカナダ全体に広がり、人々の関心を一斉に集めました。結果、警察もケンカの相手となった白人の生徒に対する捜査を約束したそう。人種差別による暴力的な行為は立派な罪に当たるため、場合によっては、今度は白人の生徒のほうが逮捕される可能性もあります。

今までの少年はまだ英語が上手くなかったこともあり、学校でも友だちが少なく孤立していたそうです。ご両親もそのことには心配していたのですが、今回の同級生らによるストライキによって、彼には本当にたくさんの後ろ盾がいることが判りました。

今後、警察や学校側がどのような対応を見せるのか、いま、世間の目が注がれています。

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