世界陸上で異例の大失態、審判員のミスで日本人選手が「失格」に。

2007/09/01 22:35 Written by コジマ

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8月25日に大阪で開幕した第11回世界陸上選手権。メダルが期待された男子マラソンやハンマー投げの室伏広治選手が惜しくも逃し、注目されていた走り幅跳びの池田久美子選手や棒高跳びの澤野大地選手が不調で予選落ちとなってしまった。塚原直貴、末続慎吾、高平慎士、朝原宣治の4選手が参加した男子4×100メートルリレーでも、予選で日本新記録となる38秒21をマークしたものの、決勝では5位に終わっている。最終日の女子マラソンに、メダル獲得の望みがかけられているのだ。

一方で、米国のタイソン・ゲイ選手が100メートルに続いて200メートルでも優勝し短距離2冠を達成し、男子4×100メートルでも金メダルを獲得した。また、女子棒高跳びでは、世界記録保持者であるエレーナ・イシンバエワ選手が4メートル80をクリアして優勝を決めると、世界記録を目指して5メートル02に挑戦。記録更新はならなかったものの、会場は大いに盛り上がったのだ。

こうして熱い闘いが繰り広げられている世界陸上で、審判員のミスにより選手が途中棄権扱いとなる前代未聞の事件が起きてしまった。しかも、その選手は日本人で、ミスが起きる前は8位の入賞圏内にいたのだ。

審判員が大失態を演じてしまったのは、9月1日に行われた男子50キロ競歩。2大会連続の入賞と北京五輪代表入りが期待されていた日本のエースである山崎勇喜選手は、酷暑の中、4時間近くも死力を尽くした闘いを演じていた。「月1000キロを歩く」という練習量から、驚異的なスタミナを身につけた山崎選手だったのだけど、配分を間違えたために35キロ地点を過ぎたあたりで急激にペースダウン。意識がもうろうしながらもひたすらゴールを目指し、なんとか入賞圏内の8位をキープしていたのだ。

男子50キロ競歩は、長居陸上競技場を発着点としており、競技場付近の道路を周回コースとして実施していたのだけど、疲労困憊の山崎選手が1周(2キロ)を残しているにもかかわらず、審判員が競技場へと誘導してしまったのだ。山崎選手はおかしいとは思ったものの、導かれるまま競技場内へ入り、そのまま5番手でゴール。近くにいたカメラマンに「ぼくはゴールしたんですか」と聞いて倒れこみ、担架で医務室へと運ばれた。判定は、当然ながら周回数が足りないため「失格」。のちに「途中棄権」に訂正されたのだけど、いずれにせよ、山崎選手の過酷なトレーニングと4時間近い死闘が水の泡となってしまったのだ。

なぜこんな単純にして重大なミスが起きたかというと、競歩では各選手の周回状況を確認する正副の審判員が待機し、歩いてくる選手の番号をマイクで伝える審判員の声を聞いて、お互いが確認し合って誘導担当に知らせるのだけど、今回は正副の2人を離して配置。山崎選手が1周を残している段階で副担当が聞き間違い、正担当と離れているため最終確認をせずに誘導担当へ同選手の周回終了を告げてしまったのだ。

五輪やサッカーのワールドカップと並んで「スポーツ三大大会」ともいわれるビッグイベントでの大失態、これは陸上ファンでなくとも憤慨する事件なのだけど、事件後、大会組織委員会が開いた記者会見で、高橋勲・道路競技審判長が「たまたま考えられないミスが出た。たまたま、そういうミスがきょう出た。審判員は一生懸命やったけど」(時事通信より)と「たまたま」を連発。報道陣からいっせいにブーイングを浴び、桜井孝次・競技運営本部長があわてて高橋審判長の発言を取り消していたのだ。

今回の大失態について、国際陸連(IAAF)の広報部長や日本選手団長、同競技で16位、17位に入った明石顕、谷内雄亮の両選手などからは次々に批判の声が上がっているのだけど、当の山崎選手は不満はないかと聞かれても「もういいです」と答え、「いい経験ができた。世界で一番になる夢はまだまだ遠いけど、コツコツと練習していきたい」(サンケイスポーツより)と、気持ちを切り替えていた。それだけに、気の毒さがいっそう増しているのだ。

そのままゴールすれば北京五輪の代表に決まっていたのだけど、今回の「途中棄権」は覆しようもない。しかし、日本陸連は「五輪代表の選考基準を事実上は満たした」として、山崎選手を五輪代表にする救済措置も考えているのだそう。そうなることを、誰よりもミスを犯した審判員たちが願っていると思うのだ。

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