開催20年の歴史に幕、鈴鹿サーキットF1再開の課題は?

2006/10/14 23:26 Written by コジマ

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今年のF1はドライバー、コンストラクターズともに激しいデッドヒートを繰り広げ、近年まれに見る盛り上がりを見せているけど、ミハエル・シューマッハ選手(フェラーリ)の引退表明や、タイヤを供給していたミシュランも今季限りで撤退するなど、さびしい話もちらほら。“世代交代”はさまざまな面で行われそうなのだ。日本グランプリ(GP)を20年間支えてきた鈴鹿サーキットでの開催が今季で最後になったのもその1つ。来季から富士スピードウェイに交代する背景や鈴鹿サーキットの課題を、中日新聞が探っているのだ。

今年の日本GPは、激しいタイトル争いや「最後の鈴鹿」を受けて、フリー走行、公式予選、決勝が行われた10月6〜8日の3日間でのべ36万1000人が来場。日本でのF1人気が絶頂だった1994年の記録を抜いて、過去最多となった。「F1=鈴鹿」の図式が20年間も成り立っていたため、今回の来場者のなかにも「なぜ鈴鹿から富士になるのか」という疑問を持つ人も少なくなかったようなのだ。

なぜ、来季から富士スピードウェイで開催されるのか。F1(国際自動車連盟=FIA)は各国のサーキットと5年契約で開催しているようで、鈴鹿サーキットは今年がその契約期限だった。ここに目を付けたのが、02年からF1に参戦したトヨタ。「F1=ホンダ」というイメージを払拭するためにも、日本GPをホンダのコースである鈴鹿サーキットでなく同社の富士スピードウェイで実施することは悲願だったのだ。

しかし、富士スピードウェイには忌まわしい過去の記憶がある。三菱地所が所有していた76年から富士スピードウェイで日本GPが開催されていたのだけど、翌77年に昨年F1から再び姿を消したジャック・ヴィルヌーヴの父、ジル・ヴィルヌーヴのマシンがクラッシュした際に観客に激突し、観客2人が死亡するという大惨事が起きたのだ。コースの安全性が問われ、それ以降は富士スピードウェイでF1が開催されることはなかった。

しかし、00年に富士スピードウェイを買収したトヨタは、鈴鹿サーキットの契約期限を契機として来季以降の日本GP誘致に乗り出した。200億円の大改修を行ったことが功を奏し、契約延長を願い出ていた鈴鹿サーキットを抑えて今年3月に契約、11年まで日本GPが富士スピードウェイで行われることとなったのだ。F1には1国1開催の原則(イタリアのモンツァとイモラなど例外も)があり、富士スピードウェイで開催されるなら鈴鹿サーキットでは行えない。

では、なぜ「鈴鹿ではダメ」なのか。この辺は中日新聞では明言していないのだけれど、どうやら鈴鹿サーキットの安全性や老朽化が問題となっているようなのだ。鈴鹿サーキットは建設から44年が経過し、最新サーキットと比べてコースの幅や非難スペースであるエスケープゾーン(ランオフエリア)が狭く、02年以降、F1以外だけど毎年死亡事故が発生している。エスケープゾーンを広げる工事は行っているのだけど、マシンの性能向上と安全性確保はイタチごっこ。もともとエスケープゾーンが狭いため拡張しても最新サーキットのような十分なスペースが得られず、敷地の問題から改修できない場所もあるそうなのだ。

中日新聞には「F1の経済効果は三重県と愛知県で100億円以上」とするエコノミストのコメントが掲載されているように、中部地域に多大な利益をもたらしてくれた鈴鹿サーキットでのF1GP。これがすべてなくなるとなれば、この地域はかなり厳しいダメージを受けるのだ。長年のF1ファンだけでなく、中部地域の観光事業者からも悲鳴が聞こえてきそう。

また、富士スピードウェイは鈴鹿サーキットより都心に近いものの、今夏開催されたUDO MUSIC FESTIVALの惨状でも分かるように、アクセスの悪さは折り紙つき。しかも、高速道路を降りてから富士スピードウェイまでの道が1つしかなく、現在行われているF1以外のレースでも終了後はかなりの渋滞となるそうなのだ。宿泊施設の少なさを指摘する声もある。なんだか、フランスGPが人気の高かったポール・リカールから、リジェ(とルノー)の力でアクセスの悪いマニクールに変わったことを思い出すのだ。

鈴鹿サーキットは世界でも珍しい立体交差のある美しいコース。長いストレートや低・高速、S字、ヘアピン、スプーン、シケインなど技術力を要するさまざまなコーナーで構成されているため、世界屈指のテクニカルコースともなっている。ぼくは中学生の頃にスロットレーシングというおもちゃを持っていて、世界のさまざまなコースを再現できるようになっていたのだけど、もっぱら「鈴鹿サーキット」で遊んでいた。やっぱり多様なコース構成は、スロットレーシングといえども楽しかったのだ(実物だと、市街地を走りトンネルがあるモナコも好き)。中日新聞は「鈴鹿は世界でベスト2の人気コース」というモータースポーツジャーナリスト・津川哲夫の意見を載せている。

こうして多くの人に愛されている鈴鹿サーキット。これを機会にできるところはきちんと改修して、コースの面白さでも安全性でも世界一のサーキットになってほしい。鈴鹿好きとしては、「ホンダがF1を続ける限り、5、6年後には帰ってくるだろう」という津川哲夫の予想どおりになることを祈るのだ。

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