14日朝に首都圏を突然の襲った停電。約3時間後には全面復旧したものの、停電は東京、神奈川、千葉の3都県約139万世帯に及び、JRや私鉄、地下鉄は一時運行をストップ。道路でも信号機が停止し、ビルではエレベーターに閉じこめられるケースが続出するなど、各方面に大きな影響が出たのだ。原因は、たった1隻のクレーン積載船だった。

被害があったのは、東京都の中央、千代田、新宿、世田谷、渋谷など14区1市の約97万4000世帯、千葉県浦安市と市川市の約19万7000世帯、神奈川県横浜市と川崎市の約22万世帯で、計約139万1000世帯が停電。朝とはいえ気温が30度を超す暑さのなか、エアコンや冷蔵庫が一時使用不能になったのだ。3時間後の10時40分には全面復旧した。

この停電に伴いJR、私鉄、地下鉄などが一時運行できなくなり、午前10時30分には復旧したものの、約31万7000人に影響が出た。東京都世田谷区の東急田園都市線三軒茶屋駅では、停止した電車に停電で他の電車も止まっていることがアナウンスされると、多くの乗客が徒歩で終点の渋谷方面へと向かったという。ある駅では、足止めされた利用客が、「いつ動くのか」と駅員に詰め寄る場面もあったそうで、お盆休みとはいえかなりの通勤客が混乱したようなのだ。

止まった電車の代わりにバスやタクシーを利用する人も多かったのだけれど、バス停には行列ができバスが来ても満員状態だったのだそう。道路自体も400カ所以上の信号機が正常に作動しなくなったため、警察官が手信号で交通整理に当たり、車は徐行運転を余儀なくされた。

エレベーターに閉じこめられるケースも続出したものの、お盆休みのためエレベーターの利用者は普段と比べて少なかったようで、こうした面を見ると、お盆休みで本当に良かったと思えるのだ。

しかし、お盆休みだからこそ影響を受けた人も多く、行楽地のお台場方面へ向かう新交通システム「ゆりかもめ」が運行停止となったため、多くの観光客が足止めを受けた。浦安市の東京ディズニーランドでは、「ビッグサンダー・マウンテン」などのアトラクションが動かなくなり、隣接する東京ディズニーシーでは発券機や入場ゲートが稼働しなくなったため、それぞれ開園時間が50分遅れた。停電による開園の遅れは初めてとのこと。アトラクションは順次復旧したというから、楽しみにしていた客への影響はそれほど深刻ではなかったようなのだ。

千葉県の一部では、停電のため給水ポンプが停止して一時断水し、都内の一部地域では水圧の変化で水道水が濁るなどの事態も起こっている。また、みずほ銀行やりそな銀行では、一部のATMが一時停止した。東京証券取引所でも多少影響が出たようだけど通常通り取り引きを実施。停電対策を見越してか、スイッチング電源と呼ばれる分野の株価が上昇しているそうなのだ。東京電力には苦情の問い合わせが正午までに1万500件あったという。

さて、原因となったクレーン積載船。千葉県船橋市の三国屋建設千葉事務所が所有する船で、2隻のタグボートに曳航され、浦安市の発注により東京都と千葉県の境にある旧江戸川で浚渫（しゅんせつ、水底をさらって土砂などを取り除くこと）作業を行うため、舞浜大橋の北側で停船した。土砂をさらうクレーンを高さ約33メートルまで上げたところ、ここに架けられている送電線に接触し、3カ所を傷つけたのだ。

近所の住民によると、「バンバンという音がした」「交通事故のようなすごい音だった」「船同士がぶつかったのかと思った」というから、かなりすごい音がしたようなのだ。この送電線は、千葉県の火力発電所から首都圏に電力を供給する27万5000ボルトの“大動脈”で、互いにバックアップする2系統が同時に傷ついたために大規模な停電に発展した。警察はクレーン積載船に乗船していた三国建設の社員に事情聴取を行っているようだけど、「送電線には気付かなかった」と語っているという。いや、それは一番気を付けなければならないことだろ、とツッコミたくなってしまうのだ。船には「送電線に注意」という大きな注意書きがあったという。

この停電が起きた午前7時40分ごろ、ぼくはちょうどパソコンで原稿を書いていた。幸いぼくの家は停電に遭わなかったのだけれど、ニュースで見てびっくり。突然部屋の明かりとともにパソコンが切れたら、さぞかしパニックになっていただろう。原稿もオジャンになっただろうし。横浜市も停電したのに、送電線から近いぼくの家が停電しなかったのは本当に幸運だったのだ。それにしても、たった1カ所の送電線損傷でこうも大きな被害が出るとは、傷つけたクレーン積載船の乗員も思ってもみなかっただろうなあ。