米国産牛肉輸入再開が正式決定、各方面でさまざまな反応。

2006/07/27 23:28 Written by コジマ

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今年1月に成田空港の動物検疫所で脊柱の混入が発見され、輸入を全面的に停止している米国産牛肉。米国側の牛海綿状脳症(BSE)検査体制をどうするかなどの根本的な問題を解決しないまま、政府は27日午後に輸入再開を正式決定したのだ。これに対し、野党各党が反対を表明し国会の閉会中審査を要請、消費者も不安感がぬぐえないという意見が多数出ている。また、大手のスーパーや加工食品会社では当面の販売・使用を見送る姿勢を見せる一方、牛丼チェーンでは意見が2つに割れるなど、各方面でさまざまな反応が見られたのだ。

米国産牛肉の輸入禁止に関する出来事をまとめてみると、

1986年 英国でBSEが確認される
1997年 肉骨粉飼料の使用が禁止に
2003年 米国でBSE発症の牛が確認され、日本などで米国産牛肉が輸入が禁止に
2004年 牛丼チェーンが牛丼の提供を停止
2005年 米政府の強い要請を受け、危険部位を除く生後20カ月以下の牛肉に限り輸入を再開
2006年 成田空港で米国産牛肉のなかに危険部位の1つである脊柱の混入が発見、日本政府は再度輸入禁止を決定

となっているのだ。05年とはいえ、輸入再開を始めたのが12月で、脊柱の混入が見つかったのが06年1月とあまりにも短い期間だったため、政府は「再開は拙速だった」と野党やマスコミからの批判を浴びた。

政府はその後、米国側にミスの原因究明と再発防止の徹底を要請し、6月には施設への事前査察を条件に輸入再開することを米政府と合意。そして、再度の輸入再開正式決定となったのだ。自民党の島村宜伸・元農林水産相は、今回の再開に対し「拙速ではない」とし、「現地調査で大丈夫だった34施設に限って許可するのであり、これを問題視したら、日本は外国の食品を食べられなくなる」(岩手日報より)との見解を述べている。また、川崎二郎厚生労働相は「今回の決断をした私の責任は極めて重く、同じことが起きたら私の責任」「国民の不安解消に取り組む」(秋田魁新報より)と発言し、今年1月のような違反が起きた場合は、100%同じなら再び輸入の全面停止をすることを示したのだ。

しかし、この決定に野党各党は猛反発。民主党の小沢一郎代表は「ブッシュ米大統領のご機嫌をうかがうため、(輸入再開決定を)手みやげにしたことは、国民に対する大いなる冒とくではないか」(読売新聞より)、「日本の専門家もまだまだ米国の検査態勢が不十分だと言っている。ここで再開を決めるのは本当におかしい」「政府の報告書なるものもずさんな中身だ」(東京新聞より)と批判。同党BSE問題対策本部は「首相、関係閣僚は(輸入再開で)万一、問題が生じた場合には、職を辞する覚悟があることを明言すべきだ」(読売新聞より)と発表した。また、共産党の小池晃政策委員長も「食の安全についての国の責任を放棄するものであり、決して許すことはできない」()と厳しい態度を示しているのだ。

消費者も米国産牛肉に対する不信感がぬぐえないとする声が多く、TBSニュースでは「検査体制、これをもっと強化してもらって日本並みにしてもらいたいですね」、「買いません。ちょっと不安ですもの」、「やっぱり、子供たちにはそういう不安なものは与えたくないと思います」という消費者の声を紹介、7月初めに行った独自調査の結果では約8割の人が購入に消極的だったそうなのだ。また、日本消費者連盟と市民団体「食の安全・監視市民委員会」は27日、政府に対し「輸入再開は食の安全を願う国民の声を無視したもの」という抗議声明を発表した。

加工食品メーカーやスーパーなども、こうした消費者の意見を反映して慎重な姿勢を崩さず、日本ハム、伊藤ハム、丸大食品の食肉関連大手3社は当面、ハンバーグやローストビーフなどに米国産牛肉を原料に使わない方針を決定した。各地のスーパーでも前回の輸入再開で手痛い思いをしているため今回の取り扱いには慎重になっており、当面は消費者の反応を見る方針のようなのだ。全国の中堅・中小スーパーが加盟する共同仕入れ組織「シジシージャパン」は、「販売再開は全くの白紙状態。政府は情報公開を積極的にし、信頼回復の努力をしてほしい」(四国新聞より)とコメントしている。

一方で、輸入再開をよろこんでいるのは外食産業。牛タン料理などを提供している外食チェーン「新宿ねぎし」では安価で味の良い米国産牛肉にこだわっていたため、大歓迎のようす。でも、消費者の反応に不安は隠せないようなのだ。また、米国産牛肉にこだわっていたといえば牛丼チェーンの「吉野家」。04年の牛丼販売停止(一部店舗を除く)以来、業績が振るわなかったため、今回の輸入再開は朗報だろう。2カ月ほど準備期間が必要なため、販売再開は9月下旬になる見通しだとか。また、輸入量が輸入禁止前の20〜30%程度と予想されるため、販売時間や期間を限定し、価格も以前と同じ280円(並盛り)は難しいという見解を示しているのだ。

しかし、同じ牛丼チェーンで、米国産牛肉の輸入禁止後、オーストラリア産牛肉に切り替えて牛丼を販売してきた「すき家」を展開するゼンショーの小川賢太郎社長は、27日に記者会見を開き、吉野家のこの動きに対して「率直に言ってやってほしくない。後で(安全面で)悪い結果が出たら責任を取れるのか」(スポーツ報知より)と厳しく批判しているのだ。同社長は、日米両政府に対しても「安全性の問題というより政治的課題として無理して再開した感じだ。消費者の納得性は薄い」()と指摘し、「すき家」の米国産牛肉使用再開については「現状では安全性を保証できない」「米国側が牛の全頭検査を実施し、飼料への肉骨粉使用を禁止するまでは使わない」と明言した。

03年の最初の輸入禁止以来、米政府にかなり強い圧力をかけられていたようで、今回の決定も、小沢代表の言う「ブッシュ米大統領への手土産」というだけではないことも想像できる。しかし、国民の安全に関わる重要な決定、政府にはもっと毅然とした態度を示してほしいのだ。

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