リンゴの商標めぐって米アップルコンピュータがビートルズ側に勝訴。

2006/05/09 16:50 Written by コジマ

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米アップルコンピュータの音楽配信サイト「iTunes Music Store(iTMS)」におけるリンゴの商標(ロゴ)の使用に対して、ビートルズの元メンバーらが設立した英レコード会社アップル(EMI傘下)が差し止めと損害賠償を求めていた訴訟で、ロンドンの英高等法院は8日、アップルコンピュータがiTMSでの商標使用に問題がないとして、英アップルの訴えを退ける判決を下したのだ。英アップルは判決を不服として、控訴を予定している。

英アップルは、ビートルズのメンバーらによって1968年に設立され、現在はポール・マッカートニー、リンゴ・スター、オノ・ヨーコ、ジョージ・ハリスンの遺産管財人が保有している。かたや、コンピュータの2大勢力の一翼を担うアップルコンピュータは、スティーブ・ジョブズ最高経営責任者(CEO)らによって76年に設立された。後発となるアップルコンピュータ命名の由来は、「ジョブズCEOがドライブ中にリンゴの木を見てひらめいた」「ジョブズCEOがビートルズのファンで英アップルから付けた」「電話帳で前に載る名前にしたかった」「ジョブズCEOの出身校であるホームステッド高校(米カリフォルニア州)の出版物『The Road Apple』にちなんだ」などの説があるそうだけど、いずれにせよ、ジョブズCEOは英アップルとの商標権で問題が発生すると心配していたようなのだ。そう考えると、世界で最も有名な商標をめぐる争いは、アップルコンピュータの設立時から始まっていたと言えるのだ。

両社の争いが表面化したのは91年。すでに、81年に「Apple」の名称とリンゴの商標の使用料をアップルコンピュータが英アップルに支払い、さらに音楽での使用を制限するという“密約”が結ばれていたのだけれど、89年にアップルコンピュータが音楽機能を付加した製品を発表したことにより英アップルが提訴。100日間の審理の末、アップルコンピュータが英アップルに2460万ドルを支払ったうえに音楽事業に参入する際には「Apple」の名称とリンゴの商標を使用しないという協定を結んだのだ。

今回の訴訟が起きたきっかけは、アップルコンピュータがiTMSのサービスを03年に開始したことで、同社が各レコード会社と契約した際に英アップルは拒否。ジョブズCEOが名称を100万ドルで購入したいという申し出も断り、「まさしく協定にある音楽事業に参入だ」として提訴したのだ。

この訴訟で争点となるのが、iTMSが楽曲のパッケージングと販売に当たるのか、それとも単なる流通とされるのかということ。91年の協定では、CDやカセットテープなどの物理メディアに楽曲を収めて販売・配布することを禁じているのだけれど、形を成さない「ネットの音楽配信」がハードディスクに収められることによって「物理メディアに収めた販売」となるのかどうかということなのだ。

英高等法院のエドワード・マン判事は「ダウンロードなど無形の方式で音楽を販売する場合でも、録音された音楽にリンゴの商標を独占的に使用する権利が英アップルにある」としたうえで、「ハードディスクはたしかに物理メディアだが、iTMSはハードディスクに収めたものを販売・配布しているわけではない。こうしたことからiTMSは音楽の一次提供者とは言えず、商標は販売促進のためだけに使用されている」と判断。このため、「アップルコンピュータはリンゴの商標を音楽事業に使用していない。したがって91年の協定に違反していない」という判決を下したのだ。

要するに、CDやハードディスクなどに収められる前の音楽データとしての配信は、音楽事業に該当しないという判断なのだ。うーん、これは今後も論争を巻き起こしそう。英アップルは控訴する予定だそうだけど、拡大していくオンラインの“音楽事業”は同社も無視できないところ。同社は、昨年12月にジョン・レノンのソロ時代の楽曲をiTMSのライバルであるYahoo! Music UnlimitedNapsterRhapsody、親会社が運営するEMI Musicなどで全曲販売を開始している。また、オンライン販売向けにビートルズの楽曲を再録音しているそう。しかし、欧米や日本、カナダ、オーストラリアで毎日300万曲がダウンロードされているというiTMSの存在は魅力的なはず。Apple先駆者としてのプライドもあるだろうけど、せっかく縁があったのだから提携してほしいなあと思うのは、ユーザーの身勝手なのだろうか。

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