カナダで「ネットわらしべ長者」、クリップ1個で居住権まで到達。

2006/04/23 20:38 Written by コジマ

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1本のワラから田畑や屋敷を手に入れた日本の昔話「わらしべ長者」。21世紀の現代で、ワラならぬクリップをスタートとし、インターネットを駆使して1年間の居住権まで手に入れた26歳のカナダ人男性が話題になっているのだ。男性の名前はカイル・マクドナルドさん。目標である持ち家を手に入れるまであと一歩のところまで来ている。

この「わらしべ長者」への道のりが始まったのは、昨年の7月。モントリオールで恋人のドミニク・デュピュイさんや2人のルームメートと暮らすマクドナルドさんは、ピザ配達や実演販売のアルバイトなどをしながらバックパック旅行に出るという気ままな生活を楽しんでいたのだけれど、落ち着いた生活に憧れ始め、持ち家を手に入れたくなった。しかし、そんな資金はどこにもない。

そこで思い立ったのが、地域情報を載せるCraigslist.orgというサイトに物々交換のコーナーに広告を出すこと。家にある赤いペーパークリップと別の物を交換してくれる人を探したのだ。「ヘンなヤツだと思われたくなかった」(ITmediaより)ため、最初は家のことには触れずに「クリップよりも大きくて良い物が欲しい」とだけ書いたのだそう。

最初に交換に応じてくれたのは、マクドナルドさんの故郷であるカナダ・バンクーバー在住の2人の女性。赤いクリップは魚の形をしたペンになった。続いて、米シアトルに住む芸術家のアニー・ロビンスさんが、知人の息子が作ったというスマイリーマークが付いた陶器のドアノブと交換に応じてくれた。ロビンスさんは冗談でサイトに書き込みをしたそうだけど、マクドナルドさんが野球を観に行った帰りにロビンスさんの自宅まで出向いたため交換してくれたようなのだ。交換する際は必ず自分が出向くという、マクドナルドさんの信念がこの交換を生みだした。

さらに、米国のマサチューセッツ州からバージニア州に引っ越す予定のショーン・スパークスさんが、ドアノブとアウトドア用品で有名なコールマン製のキャンプストーブを交換してくれた。スパークスさんはキャンプストーブを2つ持っており、引っ越しの際に1台を処分しようとしていた。それだけでなく、エスプレッソマシンに取り付ける新しいノブを探していたのだとか。うーん、後者の真偽は定かではないけれど、利害が一致した良い取り引きなのだ。この取り引き成立を記念して、2人はスパークスさんの自宅でバーベキューパーティーをしたのだそう。ちなみに、スパークスさんはCraigslist.orgのマニアで、以前には中古のノートパソコンとRV車(シェビー・ブレイザー)を交換したことがあるのだとか。

その後、キャンプストーブは米カリフォルニア州の海兵隊員によって発電機に変わり、発電機はニューヨークに住む青年の持つパーティー・パック(バドワイザーのビール樽とネオン看板のセット)と交換することが決定していた。しかし、ここで事件が起こる。取り引きの前にホテルの倉庫に置いていた発電機が、商談が成立した後に取りに戻るとガス漏れのために消防署に没収されてしまったのだ。そのときの心境を「あの時はすべてが台無しになるかと思った」(CNNより)としたマクドナルドさんは、消防署まで追いかけて何とか取り戻し、交換を成立させたのだ。このパーティー・パックは、モントリオールに住むDJによってスノーモービルと交換された。クリップ1つがスノーモービル、これだけで十分“快挙”なのだ。しかし、マクドナルドさんは満足することなく、「持ち家を手に入れる」という野望を中断しなかった。

このころから、マクドナルドさんのブログ「one red paperclip」が話題になり、テレビ局のインタビューを受けるまでになった。このインタビューの際に、「スノーモービルを交換しに行きたくない場所は?」と聞かれ、マクドナルドさんがロッキー山脈のヤークという集落を挙げたことにより、スノーモービル専門誌が「ヤークへの旅行」とスノーモービルを交換、「ヤークへの旅行」は制服支給会社の米シンタスの幹部、ブルーノ・タイユフェールさんによって同社の社用バンと交換された。

さらに話は大きくなり、バンはトロントのミュージシャンによって「スタジオでレコーディングできる権利」に、この権利を米アリゾナ州フェニックスに住む女性歌手によって、この女性歌手がフェニックスに所有する家に「1年間無料で住む権利」に交換された。現在はここまで。目標まで本当にあと一歩なのだ。

この話はハリウッドから映画化の打診も受けているようだけど、「自分の旅に活気を与えてくれたピア・ツー・ピアの楽しみを台無しにするような贈り物や、あまりに釣り合いの取れない取引は受け入れない」(ITmediaより)とコメントしているように、この契約料は“物々交換”では受け取らないため、持ち家購入の資金には充てないようなのだ。

マクドナルドさんは、放浪の旅を続けたために世界中に知り合いが多く、地図マニアでブログをしていたことによってインターネットを介した友人も多数いる。さらに、テーブル補助具の実演販売では、セールストークを鍛えられた。こうした、一見道楽のような暮らしが今回の「わらしべ長者」へとつながっていることを考えると、つくづく人生にムダなものってないんだなあ、と思ってしまうのだ。まあ、能動的に行動しないと何にもならないのだけれど……。マクドナルドさんは次のようなコメントをしている。
「もしも何かやると宣言してそれを始めて、皆がそれを楽しんだり尊敬したりしてくれたら、皆が手伝ってくれる、ということだ」(ITmediaより)
マクドナルドさんが企業の利害や広告を抜きにして、物々交換だけで持ち家を手に入れられるのか、見守っていきたいのだ。


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