官民一体となった市民への啓発が功を奏し、全国的には被害が減少している振り込め詐欺。しかし、最近は痴漢示談金を装った手口の「痴漢振り込め詐欺」が東京を中心に急増するなど、依然として被害のニュースは絶えない。そんななか、知能犯罪を担当する警視庁捜査2課が、振り込め詐欺で逮捕した容疑者たちにだましやすい人とだましにくい人についての聞き取り調査を行ったのだ。

振り込め詐欺は2004年春ごろから被害が深刻化し、被害件数は毎年約2万件にものぼっている。警察が取り締まりを強化し、関係各省庁や銀行、金融関係団体なども市民に対して啓発を行ってきたため、被害額は04年の約284億円から05年には約252億円に減少したけど、今年に入ってから東京を中心に痴漢振り込め詐欺被害が大幅に増加。被害額も1月の17億円から2月には20億円へと増えているのだ。

今回の調査の対象は、痴漢や交通事故の示談金名目などの振り込め詐欺で逮捕された4グループの男女19人。2003年7月〜今年1月に、だましやすい人とだましにくい人のタイプを聞き取りした。その結果、だましやすいタイプとして、
・ 警察官を名乗ると動揺する人
・ パニックに陥って「どうすればいいですか」と質問する人
・ 演技で泣きじゃくる容疑者を慰める優しい人
などが挙げられたのだ。

一方、だましにくいタイプとしては、
・ 法律用語の説明を求める人
・ 事件にかかわっているとされている家族に連絡を取ろうとする人
・ 警察署に電話をかけ直そうとする人
などが挙げられた。どんなときも冷静さを失ってはいけないということなのだ。また、ナンバーディスプレイ対応の電話機がある家庭も敬遠したという結果も出ている。

これに関して、警視庁が12日に公開した去年1月に犯人と被害者女性が交わした電話のやりとり*はとても興味深いのだ。警察官を名乗る犯人から、夫が携帯電話のカメラで女性のスカートの中を撮影し逮捕したという電話がかかってきた。犯人グループは警察官役、弁護士役、被害者の父親役、夫役と4人が電話口に出て、巧みにだまそうとする。

弁護士を名乗る犯人
「示談金というのがかかります。相手の方にね『これで許してください』というものがいるんですよ。こちらの金額っていうのがね、まあ娘さんの年ごろを考えてだいたい180万くらいが妥当な金額になってきます」
被害者女性
「もう一度主人と代わっていただけますか。あたし何にも話できなかったんで」
夫を名乗る犯人
「もし……も……し……（途切れ途切れ）」
被害者女性
「何か声が違うみたいだけど」
夫を名乗る犯人
「（聞き取りにくい声で）泣いてるから……」

普通ならこの辺で気づきそうだけど、突然の電話で気が動転していると疑うよりも現状をどう切り抜けるかしか考えられなくなっちゃうのではないだろうか。

しかしこの被害者女性は、本物の警察官の妻だったのだ。まあ、警察官の妻だからってみんなが冷静に対処できるわけではないけれど、普段から旦那さんに言い含められていたのか、この女性は不審に思って旦那さんに携帯電話のメールで連絡し、だまされているように装ってやりとりを録音したのだとか。このあと、親族を通じて旦那さんに確認が取れた言うと、一方的に電話を切られたのだとか。このやりとりは非常に参考になるのだ。

最近だけでも、総額約9000万円をだまし取ったとみられる犯罪グループが逮捕されたり、群馬県で72歳の女性が400万円の被害を受けたり、大分県で銀行員が相次いで被害を防いで感謝状をもらうなど、振り込め詐欺被害のニュースは依然としてなくならない。5日には構成員が1000人を超し、被害総額が2年間で100億円以上という全国最大規模の振り込め詐欺組織のトップが逮捕 されたのだ。これを機に、各組織の一斉摘発と犯罪手口のより詳細な調査が求められる。

事件の手口は分かっていても、いざかかってくると冷静さを失うもの。警察が示談を仲介することはないそうだし、「振り込め詐欺の犯人たちは、法律用語の意味を質問すると必ずボロを出す。分からない用語をうのみにせず、気持ちを落ち着かせて聞き返すことが大切」（読売新聞より）、「犯人は事実を確認されることを嫌がるので、疑わしい電話を受けた場合は、事実かどうか必ず確認してほしい」と警察が言うように、落ち着いて状況を把握し、こちらから電話をかけ直すなどのきちんとした事実確認が肝要なのだ。

*この録音は新しいブラウザでは再生されません。警視庁に問い合わせたところ、現在対処中とのことです。