著名人による卒業式の祝辞 IN アメリカ。

2005/06/22 01:21 Written by Maki K Wall@駐米特派員

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5月の終わりから6月にかけて、アメリカでは卒業式のシーズン。なかでも総合大学の卒業式は人数の多い分、小さな講堂などではスペースが足らず、野外で行われることが珍しくありません。まぁ、天候の良いシーズンなので青空の下で迎える「晴れの日」ってのもかなり素敵でじゃありませんか。

ところでアメリカの卒業式、特に有名校では相当の著名人が来賓として招かれ、祝辞の言葉を述べるのが常。大統領なんかもしょっちゅうこの祝辞スピーチをやってます。また政治家や学者などに限らず、コメディアンやミュージシャンなどを招く場合もあり、その度にニュースになったりします。たとえばハーバード大学やペンシルバニア大学ではU2のボーノ、ミドルベリー・カレッジでは昨年他界した「スーパーマン」のクリストファー・リーヴ、そしてなんとロングアイランド大学では「マペット・ショー」でおなじみのカエル「カーミット」が登場し、それぞれ個性的なスピーチをしたことがあるそうです。

ところで、先日名門校スタンフォード大学でもアップル・コンピューター社のCEO、スティーブ・ジョブスが祝辞を述べていました。ジョブス氏といえば、まったくのゼロからアップル社を立ち上げ、世界的企業に成長させた企業家ですが、なんと彼は大学は中退しているんですね。そんな彼がエリート大学の卒業生を前に、彼らへの人生のはなむけとして、一体どんなスピーチをしたのか、ちょっと興味があります。

「本日世界中でもっとも優秀な学校のひとつ、スタンフォード大学の式典に参加出来ることを光栄に思います。私は大学を卒業したことがありません。本当のことです。なので、大学の卒業式に来るのは本当にはじめての経験です。本日は、僕の人生における3つのことがらをお話したいと思います。決して大した話ではありません。たった3つのストーリーです……」

から始まるジョブス氏の祝辞は、彼の生い立ちから始まります。ジョブス氏の生みの母親は大学卒のシングルマザーだったそうで、彼が生まれる前にすでに養子に出すことを決意していたのです。

「彼女は生まれた子供は、大卒の学歴のある夫婦に貰われるべきだと強く望んでいました。実際私の生前に、すでにある法律家夫婦を里親に選んだくらいです。しかし彼らは僕が男の子だったために養子縁組を諦めてしまった。そこで私の実母はその次に養子を望んでいた夫婦に真夜中電話をかけ『男の子ですが、欲しいですか?』と聞きました。私の(育ての)両親は『もちろん』と返事をしたのです」

ところがその後、ジョブス氏の母親はこの里親夫婦の学歴が低いことを知ります。そのために養子縁組の書類にサインすることを渋り、最後はこの両親から「将来、この子を大学にいかせること」という約束を取り付け、やっと我が子を託したのだとか。

成長したジョブス氏を、両親は約束どおり大学に通わせます。ところがジョブス氏が選んだ学校(オレゴン州ポートランドのリード大学)は、学費が高いことで有名で、ブルーカラー出身の親の蓄えを全て投げ出さなければならなかったとか。さらにジョブス氏も大学に入ったものの、その価値が見出せずに、結局1学期で中退してしまいます。

「その時は怖かったけれど、なんとかなると信じるしかなかった」

その自分の信じた道を選んだジョブス氏、その後大学のキャンパスで自分の興味ある授業に顔を出しつつ、友人宅の床で寝起きし、空き瓶のリサイクルで小遣い稼ぎをし、さらに7マイル(13キロ)もはなれた場所に宗教団体がボランティアで提供する食事をしに通ったり……とかなりの貧乏生活を体験したんだとか。

それでも20歳でアップル社を創立、さらに10年後には従業員が4,000人を超える大企業に成長させたジョブス氏。未来は未知だけど、何かを信じることが大切だと、そしてそれが最終的に自分の人生を決定付けたんだ、そう語るのが印象的でした。

ジョブス氏のスピーチは、最後にこう締めくくられています。

「貪欲であれ。愚か者であれ」

なかなか彼らしい言葉ではありませんか。

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