現在、カナダのモントリオールで開催中の第35回モントリオール世界映画祭において、原田眞人監督の「わが母の記」がコンペティション部門で正式上映された。映画祭には原田監督の息子で、同作編集担当の原田遊人(ゆうじん)氏が代理で参加していたが、夏休みでカナダを訪れていた樹木希林が、本木雅弘・内田也哉子夫妻の長男・雅楽(うた)くん(13歳)と共に急遽参加。記者会見や舞台挨拶などに臨んだ。
同作は国民的作家・井上靖の自伝的小説を、豪華キャストで描く家族の絆の物語。役所広司、樹木希林、宮崎あおいらが出演し、「クライマーズ・ハイ」の原田監督が「愛し続けることの素晴らしさ」や「生きることの喜び」を描いている。
公式会見では、原田監督が現在、役所広司と別の作品の撮影を京都で行っているため、遊人氏がメッセージを代読。この作品は「自分のキャリアの中で、もっとも重要な作品になりつつあります」と位置づけており、「60歳になり小津安二郎を、そしてイングマール・ベルイマンを、ようやく再発見することのできた自分、という点が少し。そしてこの作品は、原作者である井上靖、ベルイマン、そして小津の中に生きる母親像についての意識、という点が決定的に大きかったと感じています」とコメント。「できれば、作品を見に来て下さったあなたたちにこの場で直接挨拶をしたかった。そして、1996年にモントリオールで撮影をした『栄光と狂気』という作品のスタッフ・キャストと旧交をあたためたかった」とスケジュールの都合で映画祭に参加できなかった無念を滲ませた。
一方の樹木は、作中で演じた年々記憶が薄れて行く母・八重と自分を照らし合わせ、「正常なときと不安定な時の差と言うのは、何も難しいことはなくて、それは私が普段からそうだからなのですが」と語ると会場は爆笑。「年齢が若い人が年寄りを演じようとする時に、『年寄りはこうだろう』と想像して演じるのですが、それは大きな間違いだろう、と思います。例えば、年寄りは動きや歩くのがとても速かったり、さーっと行動する人もいる。こういう部分は絶対に入れなくてはいけないな、と思ってました。若い女優さんたちは、こちらがとても速く歩いたりするのについて来るのが大変だったり、急に動いたりするので、芝居が予想外・想定外になったはず。年寄りはこうだろうな、という期待を裏切っての演技を楽しんでいましたが、テストも含めしばらくやっているうちにバレました」と撮影時のエピソードを披露した。
そして樹木は以前患ったがんの闘病体験と、その体験が今作の演技に与えた影響にも言及。「本来、役者は健康な方がいいんです。役以外では病気はない方が絶対にいいんです。ただ、病気をしたことによって、人の弱さというものが以前よりわかるようになった。それが今回の役に活きたかどうかは定かではないですが。死というものが日本では非日常となってきてしまっている。昔は死というのがそばにあった。今まで生きていたおばあさんが、明日には死んでいる、というものが目のあたりにできた。最近はそういうことは少なくなってきてしまっている。ただ、自分が病気をすることによって、人間は死というものを常に背中合わせに持っているのだ、ということを感じ、死は日常である、ということを表現しようと思いました」と語っている。