野球の世界において、左右どちらの打席でも打てる打者(スイッチヒッター)はそう珍しい存在ではないが、左右どちらでも投げられる投手(スイッチピッチャー)は極めて稀。試合中に左右をチェンジできれば、対峙する打者によって継投を必要とする機会が減り、また、投手にとって消耗品である肩を倍使えるため、選手生命を伸ばすことに繋がるかもしれない。そんな良いことずくめのように思えるスイッチピッチャーなのだが、現実的には「左右どちらも一級品」というケースはほとんどなく、マンガの世界だけの存在だと捉えられがちだ。
しかし、米国にはいま、注目を集めているスイッチピッチャーがいる。ヤンキースのパット・ベンディット投手は、2008年6月にヤンキース傘下のスタッテンアイランドヤンキース(ショートシーズンA)の試合でプロ初登板。デビュー戦でいきなり「スイッチピッチャーvs.スイッチヒッター」が実現し、その世紀の対決は日本でも話題を呼んだ。以降、順調に階段を上り、昨シーズンはタンパ・ヤンキース(アドバンストA)で21試合に登板、2勝0敗、防御率2.21の成績。そしてついに、3月30日に行われたヤンキースとブレーブスのオープン戦で、ヤンキースの2番手として“メジャーデビュー”を飾った。
メジャーデビュー戦では5回途中から6回までの1回1/3を2安打1失点という、あまりピリッとしない内容。ただ、左右どちらからの投球も披露するなど、多くの米メディアがこの歴史的な一歩を伝えている。
記録上、メジャー史上にスイッチピッチャーは4人しかいない。そのうち3人は19世紀(※メジャーリーグの創設は1876年)の選手で、この100年に限ると1995年9月28日、当時エクスポズのグレッグ・ハリス投手が1試合登板した例のみだ。それだけに、ベンディット投手は貴重な存在で、メディアやファンの関心を惹きつけている。開幕メンバー入りは難しいと見られているが、シーズン中にメジャー昇格する可能性は十分。ひょっとすると公式戦でのスイッチピッチャーが、今年は見られるかもしれない。
☆日本のスイッチピッチャー
日本におけるスイッチピッチャーは、登録上、1988年から1991年まで南海、ダイエー、阪神でプレーした近田豊年投手ただ一人しかいない。近田投手は左投げだとオーバースロー、右投げだとアンダースローという極めて変則的な投手だったが、1軍で登板したのは1試合のみで、この試合では左右両投げを披露することはなかった。以降、スイッチピッチャーは現れていない。