資金難を克服できず、シーズン半ばにして撤退を発表した「純国産」F1チーム、スーパーアグリ。日本のファンは大いに落胆したが、5月6日に会見を開いた鈴木亜久里代表はさばさばとした表情で撤退リリースを読み上げ、「とにかくお金集めの2年半。ちょっと休みたい」(中日スポーツより)とF1への復帰を否定しつつ、資金調達に奔走した精神的な疲れをにじませていたのだ。
この撤退でまことしやかに囁かれているのが、ホンダのニック・フライCEOによる介入。今年、当初資本提携を予定していた英国の自動車コンサルタント会社マグマ・グループとの破談は、同CEOが企図したのではないかとされており、ドイツの自動車部品会社バイグル・グループとの交渉についても横ヤリを入れた可能性が噂されている。また、撤退発表前にトルコグランプリ主催者にスーパーアグリが参戦できないことを勝手に伝えたために、スーパーアグリはパドックから締め出されてしまったのだ。
これについて、鈴木代表は「ホンダとは話し合いを続けているが、それだけがクローズアップされすぎ。問題はレースに出場する資金のめどをチームで立てられなかったこと」(中日スポーツより)とチームの体力がなかったことを認めつつも、フライCEOに対しては、5月4日の会見で「関係のないチームのことに口を挟んむのもほどほどにしてほしいですね。あちこちに勝手なことを言うな、と」(auto-webより)と批判している。
こうした中で、バイグル・グループのフランツ・ジョセフ・バイグルCEOが、ドイツのモータースポーツ専門誌アウトモートア・ウント・シュポルトに対してフライCEOの介入を明言し、マグマ・グループのマーティン・リーチ会長とともにスーパーアグリとの契約を妨害してきたことを激白している。
元レーサーにして米自動車会社フォードの欧州法人やイタリアの自動車会社マセラティの取締役などを務めたリーチ会長は、フォード時代にジョーダンへエンジンを供給しF1と密接に関わってきた人物。同会長が設立したマグマ・グループは、2002年にF1から撤退したアロウズなどを買収しており、スーパーアグリは元アロウズの本社を本部としているため、もともとのつながりはあったのだ。フライCEOとはフォード時代の同僚で、スーパーアグリへの紹介も同CEOが行っている。
しかし、マグマ・グループはわずか5行というファクスのみで一方的に契約を破棄した。これについて、鈴木代表は「マグマを紹介してくれたニック・フライに感謝しますよ」(スポーツナビより)とし、マグマ・グループについても「すごく真面目にステップを一つずつ積んでいく会社」(同)と評価しながらも、「ただ“マグマの先”がどうなのかは僕には見えないですけど」「その先に関してどういう話ができているのかは、僕が立ち入る範疇ではない。コメントできる立場にもないです」(同)と“影の力”の存在をほのめかしていた。
さらにバイグル・グループとの契約も実現できず、今回の撤退に至ったのだが、バイグルCEOは「もう終わってしまった。政治が勝ったんだ。惨めで残念なことだ」「ニック・フライはできることは全てやった。だから私たちの契約は成立しなかった」(RACING-LIVEより)とフライCEOを糾弾し、スーパーアグリとの交渉が今年1月から始まっていたことともに「フライ氏と(マグマグループ代表)リーチ氏が妨害したんだ」(同)と明かしている。この発言は、今年早々からフライCEOとリーチ会長がスーパーアグリ撤退を画策していたことを示唆しているのだ。
鈴木代表は、フライCEOについて「われわれが話をしているのは本田技研工業であり、フライは本田技研工業のCEOではありません」「ニック・フライが何を言おうと興味はありませんし、フライが何の話をしているのかもまったくわかりませんね」(TopNewsより)とも語っており、バイグルCEOとともに嫌悪感を隠していない。
スーパーアグリはホンダの資金援助がなければレースへの出場もできず、2010年には自前のマシンを用意しなければならかったことなどから、遅かれ早かれ撤退はやむを得ない事態であったことは否めない。しかし、撤退させるならなぜ開幕前でなかったのかとの批判が、ネット上では散見される。シーズン途中での撤退は、ドライバーにとっても不幸なことではないだろうか。佐藤琢磨選手については、ホンダが実績を評価しており、5月23日に始まるモナコグランプリまでにホンダ入りする可能性があることをスポーツ報知が伝えているが、今季中に佐藤選手の雄姿が見られるのかは未知数だ。