「10代の代弁者」尾崎豊没後15年、若者の反抗心は消えた?

2007/04/24 20:55 Written by コジマ

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1980年代に若者の絶大な支持を集めたシンガー・ソングライター、尾崎豊。体制への反抗や不安定な心の内を吐露した歌詞から、「10代の代弁者」「若者の教祖」ともいわれたのだけど、92年に26歳の若さで他界している。ぼくも中高生の頃に大きな感銘を受けたとともに、16歳で受けた死の衝撃は尋常じゃなかったのだ。

そんな尾崎豊の死から、4月25日で15年を迎える。28日にはNHK-BS2で特別番組「15年目のアイラブユー」が放送されるのだけど、20日付けの朝日新聞に気になる記事が掲載されていたのだ。「没後15年尾崎はどこへ 消えた反抗心」と題したこの記事は、学校や大人たちへの反抗、自分の存在に対する不安を歌った尾崎豊の歌詞が、現在の若者たちに受け入れられなくなっているとしている。

数年前から大学の授業で学生たちに尾崎豊の代表曲「卒業」を聴かせているという精神科医・香山リカによると、「学生の反応は年を追うごとに悪くなっている」そうで、「周りに迷惑をかけるのは間違い」「大人だって子供のことを思っているのに反発するのはおかしい」「ひとりよがりの詞で不愉快」という意見が出ているとのこと。

香山リカは別冊宝島の「音楽誌が書かないJポップ批評 35」でも、「10代と尾崎を聴く!」という企画で座談会を開いており、そこには、「ヤンキーっぽいなぁ、と。なんか恥ずかしい。なんかこう、校舎の裏でタバコをふかして見つかったら逃げ場がないとか。外の方がバレにくいのに。」(「15の夜」を聴いて)、「うまくいえないんですけど、声高にこういうことをわざわざいわない方が楽なんじゃないか、と思っちゃうんですけど。」「たぶんいまは、そんなに敏感じゃないというか麻痺してるんだと思いますね。反抗とかそういうのはあんま、頭にない。」「そんなに自分が大したものだとは思えない。尾崎の歌とか読んでると、自分ってそんなに大事にされるような、声高に叫ぶほどすごいものなのかなって。」(「卒業」を聴いて)などなど、もっと生々しい声が披露されているのだ。

また、03年から高校の倫理教科書に尾崎豊の歌詞が取り上げられているそうだけど、「彼の歌に生徒たちが実感を持てなくなってきた」という現場の声も掲載されている。

こうした若者の意見について、香山リカは「これまで成長のプロセスにおける仮想敵だったはずの親や先生の善意を屈託なく信じている」と驚き、「反発したり、知りすぎたりすると損をする。損得勘定が判断の基準になっている」と分析。一方、「放熱の行方―尾崎豊の3600日」を執筆した作家の吉岡忍は「彼の歌は、内面に深く食い込んできて、いまの若い人にとって触ってほしくないところに及ぶ。現状に適応してトラブルなく日々を過ごすことに価値を置くと、そこに気づきたくないのだろう」と推測しているのだ。

たしかに、尾崎豊の詞は「卒業」や「15の夜」などの過激な歌詞がクローズアップされがちで、詞も曲もいまの風潮に合っていないという側面があるため、自分の弱さをさらけ出すようなものにまでなかなかたどり着かない場合が多い。だけど、ぼくが驚いたのは、尾崎豊の歌詞が教科書に取り上げられているということ。香山リカの言う「仮想敵」がこうした曲を積極的に取り上げていったのでは、若者たちは逆に反発してしまうのではないだろうか。

朝日新聞は、尾崎豊の歌を「普遍的と思われたテーマ」としているのだけど、価値観は時代とともに変わるもので、普遍的だとしてもみんなが同じ感想を持つとは限らないのだ。尾崎豊自身も年齢とともに歌のテーマが変わっていったのだし、当時だってアンチはたくさんいたわけだし。

また、歌詞や言葉はそのときの感情で心に響く場合もあり、受け付けられないときもある。「容姿にも才能にも恵まれているのに変に反抗して、早く死んだのはバカだ」という意見を述べた学生も、いつしか大好きな歌手に変わっていたなんてことになる可能性もある。尾崎豊も〈笑ってもかまわないの でも君が愛や夢に 悩む時は どうか思い出して欲しい〉(「存在」)と歌っているのだし、あまり嘆かなくてもいいような気がするのだ。

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