ホームレス販売の雑誌「ビッグイシュー」、創刊3年で販売員が6倍に。

2006/08/29 10:09 Written by コジマ

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ホームレスの自立を支援する雑誌「ビッグイシュー日本版」。現在、販売開始地の大阪や東京など全国10都市で販売されているので、街頭に立つ販売員の姿を目にした人も多いだろう。このビッグイシュー日本版が9月、2003年の創刊から3年を迎えるのだ。大阪で販売を開始した当初19人だった販売員は、3年間で6倍の約120人に増加。多くの販売員たちが路上生活から脱したが、本来の目的である“自立”に関しては思うようにいかず、発行部数が落ち込み累積赤字を抱えるなど、運営上でも問題を抱えている。

ぼくがよく利用する東京・市ヶ谷駅。ホットペッパーの配布員や美容院のチラシ配りの人たちに混じって、炎天下でひたすら雑誌を掲げて立っているおじさんがいる。彼が手にしているのはビッグイシュー。そう、このおじさんはホームレスなのだ。

ホームレスというと、汚れていて駅や公園などでひたするゴロゴロしている怠け者の印象がある。しかし、ぼくが以前ホームレスの取材をしたときもそうだったのだけど、多くの人は路上生活から脱出したいという希望を抱いているのだ。ところが、ホームレスの平均年齢は55.9歳(厚生労働省調べ)だそうで、この年齢では普通の生活をしている人でも再就職は難しい。これがホームレスとなると、住所が定まっていなかったり保証人がいなかったりするため、さらに条件が厳しくなるのだ。

こうしたホームレスの自立を支援しようと2003年に創刊したのが、ビッグイシュー日本版。英国で毎週18万部を売り上げ、世界27カ国で販売されているという「ビッグイシュー」を参考に、ホームレスの研究をしていた佐野章二代表らが資本金2000万円で立ち上げた。同誌の特徴の1つが、その販売方法。書店などには置かず、ホームレスによる街頭販売のみとなっているのだ。販売員は、定価200円の雑誌を90円で購入し、差額である1冊110円が報酬となる。

当初は販売員の説得に苦労したようで、販売説明会では出席者から「こんな本が売れるのか!」と怒鳴られたこともあったのだとか。何しろ表紙も内容も、ミュージシャンや映画俳優のインタビューなどが詰まった若者向けの雑誌。販売するホームレスにとって読んでも面白くない、理解できないものだったようなのだ。購買層ももちろん10代〜30代が中心となるため、そうした年齢の人が自分たちから雑誌を買うのだろうか、とう不安もあったのだろう。

しかし結果として、販売部数が月約4万部まで伸びるという成功を収めた。創刊当時は19人しかいなかった販売員も、3年後の現在は120人にものぼる。大阪のみだった販売地域も、神戸、京都、東京と広がっていき、10都市まで拡大した。そして、これまでに約1億9000万円が販売員たちの収入になっており、120人中51人が簡易宿泊所やアパートを借りるなど路上生活から脱却できたそうなのだ。

ここまでならビッグイシューのシステムが目的通り機能しているように見えるけど、現実はそううまくはいかない。まず、本来の目的である自立に関しては、ビッグイシューの販売員から別の仕事に就けたのは約30人程度。これでは目的を達成しているとは言い難い。そして、もっと深刻なのが、発行所の「ビッグイシュー日本」が3200万円という累積赤字を抱えているということ。約4万部まで伸びた販売部数も、近ごろでは約3万部まで落ち込んでいるのだ。

こうした苦境に立たされながらも、佐野代表らは支援活動の手を緩めることはない。販売員の健康や売り上げの管理をアドバイスする生活自立支援や、履歴書の書き方やパソコンの使い方を教える就業支援を目的としたNPOの設立、スポーツやコンサートといった文化活動支援などを計画しているのだとか。ちょっとやそっとじゃヘコタレないその強い心は、見習うべきところが多いのだ。

フジテレビ系ドキュメンタリー番組「NONFIX」が04年にビッグイシューの販売員について取材しており、その内容が公式サイトに載っているのだけれど、そこには希望にあふれた販売員たちの声が紹介されている。なかには1日60冊を売り上げるという、元うどん屋経営の「カリスマ販売員」も登場。「もう一度店を持ちたいね。小さくてもいいから」と語っている目標こそが、販売する意欲につながっているのだろう。通りがかりの人と顔見知りになって、言葉を交わしている販売員も多いようなのだ。

一方、前出の市ヶ谷のおじさんは、誰とも話さず、「ビッグイシューでーす!」と売り声を上げるわけでもなく、うつむき加減でひたすら同誌を掲げ続けている。向き不向きもあるだろうけど、こうした姿勢では売れる物も売れなくなっちゃうのだ。このおじさんから購入している現場を、ぼくはこれまでに一度も目撃していない。こういうところにも格差が生まれているんだなあ。でも、ぼくは5回ほどこのおじさんから買ったのだ。

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