増加する「農産物の海賊版」、国内農家は大打撃。

2006/04/20 21:25 Written by コジマ

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途上国などによる工業製品や著作物の海賊版が世界的な問題となり、アジアにおける知的財産権の紛争が多発するなか、「農産物の海賊版」も横行し、日本の農家が大打撃を受けているそうなのだ。しかし、確信的な“盗作”だけでなく、良心から種や苗を外国人に分けてしまう農家もいるため、「種苗法」もその予防効果を発揮しきれていない状態。こうした現状をかんがみて、日本政府は「知的財産戦略本部」を設置し、対策を検討しているそうなのだ。

日中間の情報を届ける中国情報局に、「わが家の畳は本物?」と題したコラムが掲載されている。それによると、「農作物の海賊版」=「バイオパイラシー」が横行しているという。バイオパイラシー(Biopiracy)の本来の意味は、先進国による途上国の生産資源に対する侵略行為。例えば、途上国にある生物資源を利用して先進国が医薬品を開発し、特許などを得て莫大な利益を上げる一方で、原料の生産国には金銭的にも技術的にも還元されない、ということを指すのだ。

しかし、このコラムで挙げられているバイオパイラシーは、先進国である日本の技術が他国に盗まれているというもの。言うなれば、“逆バイオパイラシー”なのだ。コメやサクランボなどの高級品種が他国に盗用されるなか、コラムでは畳の原料であるイグサの「海賊版」に注目している。

畳は、心材の畳床(たたみどこ)と表面の畳表(たたみおもて)から成っており、イグサは畳表の原料。畳床がワラから化学素材を使ったものに変わっていくなか、畳表は天然素材が一般的で、行灯の灯心や和ロウソクの芯としての役目がほぼなくなった現在でも、まだまだイグサは存在は重要なのだ。しかし、もともとイグサは欧州から北米まで北半球に広く分布しているもので、近年は安価な外国産が急増したため、国内のイグサ農家は大きな影響を受けていた。価格で勝負しても勝ち目がないなら品質で、と、イグサを特産品としている熊本県が10年かけて開発したのが「ひのみどり」という品種なのだ。

「ひのみどり」の特徴は、
・在来種と比べて細く均一
・着花がきわめて少ない
・色ムラがほとんどない
・畳表にした際、美しく肌触りが優しい
・在来種と比べて色があせにくい
・在来種と比べて黒い筋の発生率が約半分
といったものが挙げられるのだとか。インターネットで調べてみると、「ひのみどり」に対する畳屋さんの評判は必ずしも良いというわけではないのだけれど、コメでいうとコシヒカリやササニシキに当たるもの。ブランド好きの日本人なら「この畳は最高品種『ひのみどり』で作られてます」との表示があれば、表示がないものよりも消費者に選ばれる確率が高そうなのだ。こうして苦労して開発し、ブランドを確立してきた品種が、「海賊版」の危機にさらされているという。

「ひのみどり」は、植物の新品種開発保護法である「種苗法」に登録されている。この種苗法は特許権のようなもの。新品種の育成権利を持つ者の許可なしには生産できないことになっていて、これを破れば個人なら3年以下の懲役または300万円以下の罰金、法人なら1億円以下の罰金が科せられるのだそう。育成権利を持つ熊本県は03年、長崎税関に宛てて中国産「ひのみどり」畳表の輸入差止を申し立て、税関は輸入畳表について全量検査を行うようになった。合法な畳表を輸入するにも、業者は関税のほかにDNA鑑定の検査料250万円を支払わなきゃならないのだそう。業者には気の毒だけど、こうしたものが犯罪の抑止力になるのだ。しかし昨年、中国で生産した「ひのみどり」を密輸入しようとしていた業者が長崎の税関で摘発された。開発からわずか4年のことである。

現在、海外での海賊版の生産が疑われている農作物は、イグサやコメだけでなく、サクランボ、アズキ、茶など枚挙にいとまがない。産地の人々が年月と費用、そして努力を傾けて開発し、ようやくブランドとして消費者に評価されるようになったところへ、突然不正な収穫物や加工品が出てくれば、権利侵害によって産地の農家はショックなだけでなく、生活にも困ってしまうのだ。

しかし、冒頭でも述べたように、法律を知らずに良心から種苗を外国人に分けてしまう農家もいるため、製品を輸入しようとしている業者に対しては別をして、種苗法の抑止力が機能していないという側面もある。

「安価な製品を求めているのは消費者ではなく企業である。消費者が安価な製品を求めているという言い訳をして、企業が育成者権侵害を消費者の責に帰すべきではない。権利侵害をしてまで安価なな加工品を供給することを消費者は望んでいない。」―04年11月に開かれた「植物新品種の保護に関する研究会」の席上で、1人の委員がこのように述べている。政府は03年、内閣府内に知的財産戦略本部を設置し、「知的財産推進計画」を毎年策定しているのだけれど、法律の策定だけでなく、こうした農家や業者、消費者への啓蒙こそが大切なのだ。

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