マグロの減少止まらず「漁獲量削減が必要」、水産庁資源評価で。

2006/04/17 23:06 Written by コジマ

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美しく香り高い赤身に字のごとくとろけるようなトロ――刺身の王様にして焼いて良し煮て良しのマグロは、魚食文化の日本でも特に親しまれている魚。しかし、乱獲の影響から個体数の減少が問題となっており、10年前から資源状態の悪化が指摘されていた。そして、水産庁が17日までにまとめた2005年度の資源評価では、その減少に改善の兆しが見られず、回復には漁獲量の削減が必要なことが明らかになったのだ。

日本人のマグロ好きは世界的にも有名で、その消費量は年間60万トン以上。なんと縄文時代の遺跡(岩手県・太陽台貝塚)から骨が発見されているのだ。江戸時代でも初期〜中期は、鮮度が保てないためイワシやアジと同じく下魚として扱われていたのだけれど、後期(文化文政期)に開発された江戸前寿司(にぎり寿司)のネタとして赤身を醤油に漬けた「ヅケ」が大流行。その後はトロが市民権を得、マグロは寿司界のスターダムへとのぼりつめた。ちなみに、トロは猫も無視する「ネコマタギ」と呼ばれ、昭和初期まで捨てられていたのだ。築地でバイトする学生に持って帰らせたり、今考えるととんでもなく贅沢なエピソードも残っている。身なりも態度も食べ物もこざっぱりとしたものを好んでいた江戸っ子にとって、トロの濃厚さは「粋」じゃなかったのかもしれない。そのわりにはウナギの蒲焼きのタレは濃厚だったりするけど……。

さてさて、今回の水産庁の資源評価で漁獲量制限が必要とされたのは、マグロのなかでも本マグロとして人気が高いクロマグロと、インドマグロとも呼ばれるミナミマグロ。特にミナミマグロの減少は深刻だそうで、水産庁は「資源水準は極めて低い」と評価している。これは近年、日本で「本マグロに味が似ている」と急にもてはやされたことが影響しているのかもしれないのだ。またクロマグロについても、「卵からふ化して新たに群れに加わる魚は増加傾向にある」ものの「親の数は低レベルで推移」しているため、「このままの漁獲が続けば資源は減少に向かうと考えられる」としている。

この状況をかんがみて「現状の漁獲水準は資源をさらに減少させる可能性が高い」ため、今後国際的な資源管理機関が定めているマグロの漁獲量を削減するよう議論されることとなる、と水産庁はまとめている。ただでさえ高価な本マグロやインドマグロがさらに高くなるなんて、本マグロの切り落としをスーパーの閉店ギリギリに半額で買っているぼくんちの食卓にはもうのぼることがなくなってしまいそうなのだ。マグロが絶滅するよりはいいけど……。

一方、クロマグロやインドマグロよりも価格が低く、回転寿司やツナ缶でおなじみのメバチマグロやビンナガマグロ、キハダマグロの小型種についても、「比較的安定しているものの、資源量が低位で漁獲量は多く、悲観的な状態にある」としている。うーん、このままでは本マグロどころかマグロ自体が滅多に食べられなくなっちゃうかもしれないのだ。

この背景には、日本だけでなく欧米や中国、インドでもマグロが食べられるようになったこともあるのかもしれない。また、人為的なことだけでなく、マグロもエサとしているクジラの個体数増加も影響しているのだろう。17日付けの英紙インディペンデントが、国際捕鯨委員会(IWC)加盟国で日本やノルウェーを中心とした捕鯨支持国が英国や米国、ドイツを中心とした反捕鯨国を上回る見込みであるため、「日本が過半数を確保すれば大災難だ」と報じているのだけど、保護によりミンククジラやマッコウクジラが増えすぎた影響がここにも出ていることを認識しなくてはいけないのだ。

健康志向のため、高タンパクで脂も体に良く、味も肉に近いのマグロは世界的にもてはやされている。売れるから獲りまくるという姿勢や、海を見ないでクジラだけを見るような考えは置いて、海全体を考えたうえでの全生物の漁獲量コントロールが求められるのだ。

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