「大人のロック!」、ジョン・レノンとポール・マッカートニーを徹底比較。

2005/12/04 07:02 Written by コジマ

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ジョン・レノンが没後25年目を迎える今年、日本だけでなく世界的に追悼イベントが催されている。かたや、63歳になった今年もニューアルバムを発表したりツアーを行ったりライブ8に参加したりと精力的に音楽活動を続けているポール・マッカートニー。2人は言わずと知れた伝説の史上最高のバンド、ビートルズの中心的人物で、互いに希有なソングライターだったがゆえに切磋琢磨し、確執や軋轢も生まれていったのは有名な話。現在もライブでビートルズ・ソングを歌い上げるポールは、死後25年経った今でもジョンを意識していることを感じさせる。そんな2人の音楽的センスや性格の差を徹底比較した特集「レノン VS マッカートニー」が、1日に発売された60〜80年代の音楽を取り上げる音楽誌「大人のロック!」2006年冬号に掲載されているのだ。

ビートルズはぼくが初めて触れた音楽なのだけれど、これは、1966年の来日公演の際に宿泊した東京ヒルトンホテル(現キャピトル東急ホテル)に押しかけて警備員につまみ出されるほど熱狂的ファンだった母親の影響なのだ。ぼくの家では毎週日曜日にビートルズがガンガンにかかっていた。そして、中学3年生のときにNHKFMで22時間ぶっ続けで放送されたジョン・レノン没後10周年記念特別番組「オールデイ・ザ・ビートルズ」(パーソナリティはロッキングオン社長の渋谷陽一)がビートルズ好きを決定した。受験生だったぼくは、テープに録音した同番組を予備校の往復時だけでなく、やりたくない勉強の逃げ道として繰り返し聴きまくっていたのだ。

ビートルズは、リードギターのジョージ・ハリスンとドラムのリンゴ・スターの2人がいただけでもそこそこヒットするバンドになったといわれているけど、ジョンとポールという希代のソングライターが2人も在籍していたことで世紀のバンドとなったのだ。類い希なる才能を持った人が組んだバンドは、例えば同時代のローリング・ストーンズ(ミック・ジャガーとキース・リチャーズ)やヤード・バーズ(ジェフ・ベックとジミー・ペイジ)なんかが挙げられるけど、他のバンドとビートルズが決定的に違うのは“どちらかがわがままでどちらかが大人”という構図が出来上がってなかったことなのだ。それがオアシスのノエル・ギャラガーとリアム・ギャラガーのように兄弟だったらまだうまくいくのだろうけど(実際ギリギリだけど)、他人ではなかなかそうはいかないのが現実。これは、ラモーンズのジョニー・ラモーンとジョーイ・ラモーン(ラモーンズはメンバー全員がラモーン性を名乗っているけど実際に兄弟なわけではない。ちなみに「ラモーン」はポールがハンブルク時代に名乗っていたステージ・ネームから取っている)に通じるものがあるのだ。比較したら双方で怒るファンがいるかもしれないけど。

ジョンとポールは、ジョンが組んでいたスキッフルバンドがセント・ピーターズ教会のバザーでライブ行った際に共通の友達の紹介で出会っているのだけれど、そのときジョンはポールが自分を脅かす存在になることを直感で悟ったという。ガキ大将でバンドマンだったジョンが、ピアノが上手くて生意気な年下の美少年に対して嫌悪感を抱くのは当然だけれど。

こうした2人の差は、楽曲にも表れているのだ。甘くポップなメロディーが好きなポールと直感的でストレートなメロディーを好むジョン。この決定的な違いは互いに刺激し合い、バンド初期には共作という形でうまく融合し、ビートルズの大成功に結び付いたのだ。さらに、ポールは音楽の理論を天才的に理解し、そのなかで才能を発揮した。ジョンは音楽の理論を意に介さず、音楽という枠にこだわらずに自己表現方法の一つとして才能を発揮した。このことからもわかるように、音楽に対するアプローチからして2人はまったく違うのだ。
音楽の範疇を超えて芸術家としても思想家としても世界的なカリスマとなったジョンに対して、宇宙ステーションにライブを届けたり絵本を出版したり(「エリナ・リグビー」などポールの曲は物語的なものが多い)しても、ポールは頑固に一音楽家という姿勢を崩さない。アーティストであるジョンに対してポールはあくまでミュージシャンなのだ。ビートルズの曲で一般に広く認知されている「レット・イット・ビー」も「ヘイ・ジュード」も「イエスタデイ」も、全部ポールがメインでつくっているし。

さてさて、説明が長くなってしまったけれど、「大人のロック!」2006年冬号の特集「レノン VS マッカートニー」では、ジョンとポールが徹底比較されており、作家の広田寛治氏の「ビートルズだけでなくロックシーンも変革したレノンVSマッカートニー」、音楽評論家の松村雄策氏の「ジョン&ポールはミラクルだった」、音楽家の杉真理氏の「おたがいをノックダウンしていた好対照のソングライター」、ビートルズ・コピーバンドの廣田龍人氏の「バンドを成功に導いた対抗意識と嫉妬心」、ボイストレーナーの小室和幸氏の「心の内と人の結びつきを物語る歌声」の寄稿や、ビートルズの楽曲の“ジョン度”と“ポール度”の割合をビートルズ研究家の鳥居一希氏と前述の寄稿者たちが検証する「ビートルズのヒット曲&名曲に見るレノン VS マッカートニー」、ジョンとポールが争った事件を紹介する「ビートルズを変えた5つの場外乱闘」、ジョンとポールのふるさとへの想いの違いと楽曲の違いが如実に出た「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」と「ペニー・レイン」の舞台を訪ねる「ジョンが空想に遊んだストロベリー・フィールズとポールの夢をふくらませたペニー・レイン」のほか、ポールの全米ツアーのセットリストなども掲載。特に「ビートルズのヒット曲&名曲に見る〜」はとても面白いのだ。ここに取り上げられた曲以外にも、“ジョン度”なら「トゥモロー・ネヴァー・ノウズ」や「ノルウェーの森」、「アクロス・ザ・ユニバース」、“ポール度”なら「イエスタデイ」や「ゴット・トゥー・ゲット・ユー・イントゥ・マイ・ライフ」、「ヒア・ゼア・アンド・エヴリホエア」、「ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード」なども挙げて欲しかったのだ。また、「ヘイ・ブルドッグ」のジョン度と「へルター・スケルター」のポール度は気になるところ。

同号ではほかに、プログレッシブ・ロック・バンドの読者による人気投票ベスト20やエアロスミスも特集されているのだ。ぼくが密かに楽しみにしている、「ロック酒場」では東京、大阪、神戸、京都、札幌のロックンロールが聴ける飲み屋さんを紹介している。そういえばこの「ロック酒場」、11月に今年の秋号までに掲載された店を再編集してムック「ロック酒場!」として発売されているのだ。大音量で盛り上がれるノリノリ店も静かにロックに浸れる店も紹介されているので、興味がある人はぜひ。ここで紹介されているような店を訪れることは、ふだん音楽を聴かなくなった人にとって再びロックに触れるよい機会ともなるのではないだろうか。こうやってみてみると、ロックがかかっている飲み屋さんって結構あるんだなあ。お酒と美味しい食事に好きな音楽がプラスされたら最高なのだ。さらに、レスポール、ストラト、フライングV、テレキャスと取り上げられてきた「名器伝説」では、ジョージ・ハリスンも手にしていたギブソンのES-335を紹介。次号はジョンやジョージ、ザ・フーのピート・タウンゼントが使っていたリッケンバッカーかな?

季刊である「大人のロック!」は今回で5号目で、5回連続でビートルズを特集している。残念ながら次号はビートルズの特集はないのだけれど、今度、是非ともぼくが大好きなアルバム『アビイ・ロード』B面のメドレーをフィーチャーした特集を組んで欲しいのだ。

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