遺伝子組み換えで男女の性的指向が変化?

2005/06/06 05:55 Written by コジマ

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「人は遺伝子に支配されているのか?」なんていう中村うさぎのエッセイを読んだことがあるけど、もしそうだとしたらちょっぴりさみしいのだ。でも、そのことを裏付けるような、たった一つの遺伝子を組み換えただけで男女の性的指向が入れ替わっちゃうという研究結果が、6月3日発売の科学雑誌「Cell」(2005; 212: 785-794)に発表されたのだ。

研究は、ウォール真木の睡眠に関する記事でも登場した、人に近い遺伝子を持つというショウジョウバエを使って行われ、オスしか持たないfruという遺伝子を組み換えて観察したそうなのだ。

ショウジョウバエの求愛行動は、オスが前脚でメスを軽く叩き、羽を広げて振動させて音を出し、メスの生殖器を舐め、自分の腹部を丸めて性行為をするというもので、メスは気に入れば受け入れるだけで、行動は起こさず、オスとメスはその求愛行動によってかなり見分けやすいとのこと。

研究者であるオーストラリア科学アカデミー分子・生物工学研究所のバリー・J・ディクソンとエブー・デミール両博士によると、その結果、「メスの遺伝子をオスに組み込むと、そのオスは性的指向が変わり、求愛行動をしなくなる。メスの場合はさらに明確で、メスにオスの遺伝子を組み込むと、オスのように求愛行動をし始める」ということを発見したのだ。

さらに、「メスに転換したオスは他のオスに対してしか性的興味を持たなくなるのに対し、オスの遺伝子を持ったメスは、メスのフェロモンを出しながらオスに対しても誘惑する」のだそう。オスとメスが交差しまくっててどっちがどっちだか分からなくなっちゃいそうな文章だけど、とにかく、一つの遺伝子を組み換えるだけでオスとメスの性的指向が入れ替わり、メスは変化後の“同性”まで誘惑するそうなのだ。

こんなふうに、一つ組み換えるだけで行動を変化させられる遺伝子を「スイッチ遺伝子」と呼ぶそうで、今後この分野のトレンドになりそうなのだ。

今日も、米軍の元大佐が女性として勤務したいという願いを取り下げられたために訴訟を起こしたという記事が毎日新聞に掲載されているように、近年、「生まれつき心と体の性認識が違う」という性同一性障害が日本でも認知度が上がり、昨年10月に性同一性障害特例法で“女性”となったタレントのカルーセル麻紀をはじめ、患者(というのが適切かどうかわからないけど)として診断される人が増えているようなのだ。マイノリティーというだけで社会的に拒絶される場面が多々ある“患者”さんたちを苦しみから救えるように、こういった遺伝子による治療の確立が急がれるのだ。

でも、遺伝子治療によって心を体に合わせる(性的指向を強制的に変化させる)ことと、心を優先して社会的に“異性”であることを認知させることと、本人にとってどちらがよいのかは分からないのだ。選択肢が増えるというのはよいことではあるのだけれど、遺伝子治療ってなんだか怖いのだ。


※訂正

文中の研究が今後、性同一性障害(Gender Identity Disorder;GID)の遺伝子治療に発展するような表現をしましたが、この研究が寄与しそうなのは同性愛(Homosexual)に対するもので、GID患者の症状は性的指向(Sex Orientation)とは関係がなく、今回の研究内容とは関係のないものでした。お詫びして訂正いたします。>うらりょんさん、サンキューなのだ。

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