「シネステジア "synesthesia"」という言葉をご存知でしょうか。日本語には「共感覚」と訳されますが、これは人間の視覚・聴覚・味覚……といった五感に関する不思議な現象のことです。
シネステジアの定義は「ひとつの感覚の刺激によって、別の知覚が不随意的に引き起こされる」(
リチャード・E・シトーウィック博士)現象のこと。平たく言えば、特定の音を聞くと色を感じたり、食べ物を味わうと指先に感触がする……といったように、ひとつの刺激に対して、ふたつ以上の感覚が認識されるという状態を指します。中でも一般的なのが「音」から「色」を感じるタイプ。うーん、「音を見る」能力なんて、幻想的で凄いじゃないですか。
例えば詩人・童話作家であった宮沢賢治も、この共感覚の持ち主だった考えられています。彼にとって「月」は、果物の香りなんだそうですよ。面白いですねぇ。
さて、この感覚が不思議に混じり合う状態については、判っているだけでも39種類が確認されています。そのメカニズムについてはまだまだ医学的な研究が浅いそうですが、一説によると数百人に1人は共感覚を持ち合わせているんだとか。自分が共感覚者だと気付かない人も多いそうで、実際にはそんなに珍しくない現象なのかもしれません。
しかし最近、スイスのチューリッヒ大学の研究者らによって、大変珍しいシネステジアの持ち主が報告されました。とある女性が高さの違う2つの音を聞くと、その組み合わせによって異なった色が見えるというのですが、この視覚的認知の他にも彼女の場合は、なんと舌で味を感じるのだとか。まさに音を「味わう」のですね。
彼女が感じるのは「塩辛い」「甘酸っぱい」「クリーミー」といったもので、特定の音には常に一定の味が対応するのだそうです。科学誌「ネイチャー」内の論文によると、この女性はスイスに住む音楽家。本名は公表されていないそうですが、耳以外でも音を感じる能力のある彼女は、ミュージシャンとしてとても有利な立場にいるといえるのかも知れませんね。