この可能性に言及したのは、米国立大気研究センター(NCAR)の研究員カール・ドリュース氏らのチームで、米オンライン科学誌「PLoS one」で発表した論文で明らかにされた。出エジプト記にはモーゼが手を差し出した後、「一晩中強い東風が吹いて海水を押し分け、陸地に変えた」(米紙USAトゥデーより)とする記述があり、ドリュース氏らはこれをもとに可能性を研究。コンピュータシミュレーションによって、実際にそうしたことが起こり得るのかを探った。
問題は、諸説ある“海が割れた”といわれる場所の特定。これまで、多くの研究者たちがモーゼらの行程を分析し、海底の地形や潮の満ち引き、嵐や津波といった要因を掲げ、海が分かれた場所が紅海側とする見方と地中海側とで分かれている。今回ドリュース氏らは、1882年にエジプトへ軍事介入に入った際の英国軍の記録に注目した。
当時のアレキサンダー・タラク少将が残した記録には、ナイル川が地中海へと注ぎこむデルタ地帯にあったラグーン(潟)の水が「風により一時消えた」と残されているという。タラク少将は「東方からの強風がとても強くなったため、仕事を止めなければならなかった」(米紙ニューヨーク・デイリーニューズより)と記述。その翌朝、彼はラグーンの水が完全に消えていることに気付き、「地元の人が泥の上を歩き回っていた」としている。
これに注目したドリュース氏らのチームは、場所を紅海側ではなく地中海側と推測。当時の地形状況を調べ、コンピュータシミュレーションを使って、その辺りで東からの風によって海の水が分かれるのかを計算した。そのシミュレーション映像は「Parting the waters, Part 1: The physics of a land bridge」(http://www.youtube.com/watch?v=XZqIZqDh1ns)とのタイトルでYouTubeに投稿されている。
それによると「海が割れて陸地が現れる」とされるのは、ナイル川がタニス湖と呼ばれる地中海側のラグーンに注ぎ込んでいる付近。40キロ四方に切り取られた地形映像によるシミュレーションで、東からの風が付近の海水を西へと押し流していくと、その近辺には浅瀬が姿を現し、陸続きになる様子が示されている。チームの計算によると、風速約28メートル以上の強風が長い時間吹き続ければ、この現象が起きると指摘。シミュレーションでは、陸路は4時間弱現れたとしている。
ドリュース氏は今回の発表について、有名な一節が常に史実なのか疑問がつきまとっていたとして、「“海が割れた”ことが、物理法則で成り立つことを説明できた」(USAトゥデー紙より)とコメント。海が割れるという現象も、場所や自然条件が合致していれば、決してあり得ない話というわけではないようだ。