警備会社ルーミスの警備員として勤務していたムスラン容疑者は事件当日の午前、同僚2人とフランス中央銀行リヨン支店から現金の輸送を担当。1,160万ユーロを小分けした49袋を運ぶ予定だった。しかし現金を回収するために立ち寄った別の銀行で同僚2人が車を離れたところ、ムスラン容疑者と輸送車が忽然と姿を消してしまう。
連絡を受けた警察は、ムスラン容疑者の単独犯行と、事件に巻き込まれた可能性の両面を視野に入れて捜査を開始。昼過ぎにはリヨン郊外で空になった輸送車が発見されたが、ムスラン容疑者は見つからないままだった。その後の捜査でムスラン容疑者が同僚に待遇の不満を漏らしていたことや、家の荷物が消えていたことが判明。11月7日には、ムスラン容疑者が借りていた貸倉庫から約900万ユーロ(約12億円)が見つかり、警察が行方を追っていた。
一方で、事件が大きく報道されるとインターネット上では、ムスラン容疑者に対する書き込みが多数寄せられるなど、盛り上がりを見せる。ムスラン容疑者の名前でドメインを取得し、事件の経緯を紹介するサイトが登場したほか、「Facebook」ではムスラン容疑者に関するコミュニティが乱立。最も大きいコミュニティには6,000人を超えるメンバーが参加している。そこには、「暴力を使わずに実行した」「世紀の強盗」など、犯罪でありながら支持するコメントがほとんど。英紙ガーディアンはこの現象を「ムスランは、社会の不公平に完全犯罪で立ち向かった“負け犬の英雄”としてもてはやされた」と分析、大胆に大金を奪った行動が爽快に思えた市民も多かったのかもしれない。
一躍ヒーローにされたムスラン容疑者だが、迫る捜査の手に逃亡を諦めたのか、11月16日にムスラン容疑者はモナコの警察当局へ出頭した。11月17日にはフランスのリヨンへ移送し、具体的な取り調べを始め、警察は見つかっていない現金の回収に全力を挙げている。ちなみに、「強盗の罪により、最高で懲役3年」(AFP通信より)を科される可能性があるそうだ。
ムスラン容疑者逮捕の報道後も、「Facebook」には主にフランス語での書き込みが多数寄せられており、英雄視はまだ続いてる様子。「寛大な措置を願う」「看守にもムスランの仲間がいっぱいいるはず」など、書き込みの勢いは止まっていない。