1995年から毎年秋にパリで開催されている“世界最大のチョコレートの祭典”こと「サロン・デュ・ショコラ(Salon du Chocolat)」。日本でも同名のイベントが2003年から始まり、世界的な著名ブランドの数々や、世界の一線で活躍するパティシエ、ショコラティエが一堂に会するイベントとして年々メディアの報道も過熱しているので、チョコレートに興味がなくともその名を目にしたことがある人は多いのではないだろうか。現在はフランスや日本だけでなく、米国(ニューヨーク)、ロシア(モスクワ)、中国(上海)などでも開催されている、世界的なイベントだ。

そんな「サロン・デュ・ショコラ」の本場の雰囲気はどのようなものなのだろうか。10月14日〜18日の期間、パリの見本市会場ポルト・ド・ヴェルサイユで開催された「サロン・デュ・ショコラ」に、ナリナリドットコムのフランス特派員が潜入してみた。

会場のポルト・ド・ヴェルサイユは大きな展示場ということもあり、天井が高く、自然光も降り注ぐ開放的な施設。百貨店の催事場で行われている日本の「サロン・デュ・ショコラ」とは、入り口から異なる雰囲気だ。そして展示やショー、販売といったイベント的な側面に加え、チョコレートを仕事にしている人々がゆったりと交流・商談をする場となっている。

出展しているブランドのブースをぶらりと歩いていると、多くの著名ショコラティエに出会えるのも「サロン・デュ・ショコラ」の醍醐味。日本でもおなじみのショコラティエ(パティシエ)では、ピエール・エルメ氏、ジャン=ポール・エヴァン氏、ピエール・マルコリーニ氏、アンリ・ルルー氏、フランソワ・プラリュ氏、サダハル・アオキ(青木定治)氏など、そして書籍「チョコレート・バイブル」の著者で、世界的なチョコレート鑑定士として知られるクロエ ドゥートレ・ルーセル氏などに出会い、ちょっとした会話もすることができた。臆せずに話しかければ、大御所と言えども気取ることなく、気軽にコミュニケーションが図れるのはファンにとっても嬉しいところだ(※日本の「サロン・デュ・ショコラ」でも、来日したショコラティエに話しかけるとフランクに接してくれ、気軽にサインもしてくれる)。

順を追ってブースの様子をいくつか紹介していこう。まず、5年ぶりの出展となった「ピエール・マルコリーニ」はマルコリーニ夫妻が揃ってブースに立ち、熱心にチョコレートやカカオの原産地などを説明。胡椒やサフランを使用したスパイス系の新作は、果実とは異なる酸味や辛みが口の中に広がり、面白い逸品だった。

「ジャン=ポール・エヴァン」も夫妻でブースに。ジャン=ポール・エヴァン氏は普段、厳しい人物としても知られ、強面の印象が強いが、この日は笑顔を浮かべることも多く、上機嫌のよう。ただ、さすがにライバル店の面々と話し込んでいるときには険しい顔つきに戻っていた。

「サダハル・アオキ」は新作としてジンジャーブレット(生姜風味)のチョコレートを販売(日本の「サロン・デュ・ショコラ」でデビュー予定)。外箱はかなりオシャレなもので、グッチなどの高級ブランドを扱うメーカーによるものだという。ちなみに、「サダハル・アオキ」は、今年から本腰を入れて本格的なチョコレート作りを開始。アオキ氏が望むカカオ農園と手を組み、本当に作りたい正統なチョコレートを形にしているそうだ。ジンジャーブレットのチョコレートも美味しく、現地の評価も高いものだった。

いろいろなブースを巡る中で、最も気になったのは「ジャン=シャルル・ロシュー」と「アンリ・ルルー」。「ジャン=シャルル・ロシュー」は「ミッシェル・ショーダン」で10年修行したのちに独立したロシュー氏のブランドで、クレメンティーヌ(みかんに似た柑橘)やポワール(洋なし)といった果物を詰めたチョコレートが絶品だった。賞味期限が2日しか持たないという、鮮度を大事にしたチョコレートで、とにかく本当に“ジューシー”という言葉がピッタリの逸品。まだ来年1月に開催される日本の「サロン・デュ・ショコラ」に出展するかどうかはわからないが、来日の際には、ぜひとも試していただきたい。

伊勢丹新宿店に店舗を構えている「アンリ・ルルー」は日本でも知られたブランドだが、ルルー氏の織りなす世界は“質実剛健”といった印象。新作では、これまでなかった抹茶のチョコレートが登場した。また、焙煎の素晴らしいナッツ系の新作、うまく味が閉じ込められたシトロンの新作など、総じてレベルが高いものだった。

「サロン・デュ・ショコラ」ではいくつかのイベントが催されているが、そのひとつがチョコレートの細工技術や創造性を競い、ショコラティエの頂点を決める「ワールドチョコレートマスターズ2009」だ。日本からは今年、国内予選を勝ち抜いたグランドハイアット東京の平井茂雄氏が参戦。世界各国の代表と熱戦を繰り広げた結果、見事に優勝の栄冠を手にしている。

また、日本のいくつかのメディアでも伝えられていたが、チョコレートを採り入れた斬新なデザインのファッションショーも開催。著名なショコラティエや、プラダなどの有名ブランドの“競演”に会場は沸いていた。

本場の「サロン・デュ・ショコラ」と日本との大きな違いはやはり空輸を必要としない分、チョコレートの鮮度が良いことが挙げられる。カカオの油や、チョコレートの中に入れる素材ひとつひとつが“できたて”に近い状態で味わえるだけに、その味はどれも格別だ。また、各ブースでコミュニケーションを取ることができれば、ほぼすべてのチョコレートの試食もできる。ショコラティエたちとの会話も楽しみながら、最高に美味しいチョコレートを食べる。チョコレート好きにとって、至福の場であることは間違いない。
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