受賞決定後の会見で、「めさんこうれしい」と大阪弁で語っていた川上さん。受賞によって多くの祝辞を受けたようで、自身のブログ「純粋悲性批判」では1月17日のエントリーでお礼を述べている。また、同エントリーの文末に「お仕事関係のお話はすべて文藝春秋社にご連絡くださいますよう、なにとぞよろしくお願い申し上げます。」とあることから、仕事の依頼が少なからず来ていることがうかがえるのだ。今回の受賞直前にも、毎日新聞夕刊での連載が決定したのだとか。
大衆文学の新人賞である直木賞と違い、芥川賞の受賞者は即売れっ子作家につながるわけではないといわれている。近年は、柳美里の「家族シネマ」(第116回)、花村萬月の「ゲルマニウムの夜」(第119回)、金原ひとみの「蛇にピアス」(第130回)などが映画化されているけれど、現在は文壇を去った受賞者も少なくない。
こうした中で、川上さんが受賞直後に“売れっ子”となる現象が起きている。それも作家としてではなく、歌手として。川上さんは、本名の「川上三枝子」名義で音楽活動を行っており、02年にアルバム『うちにかえろう〜Free Flowers〜』でデビュー。その後、名前を「美映子」に変えてアルバム『夢みる機械』(04年)、同『頭の中と世界の結婚』(05年)などをリリースしたのだけど、本人が「壊滅的に売れなかった」(中日新聞より)と語るほどヒットにはつながらず、音楽活動は事実上休業してしまった。
しかし、今回の受賞によってキャリアがクローズアップされると、全国のレコード店から所属レコード会社のビクターエンタテインメントに問い合わせや注文が殺到。3作合わせて約6000枚の追加オーダーが入り、たった1日で過去の売り上げ(計2400枚)を大幅に上回ったのだ。在庫がなかったビクターは、追加生産に乗り出したという。
作家としてはまだ新人だけど、歌手・詩人としては5年のキャリアを持つ川上さん。小説、詩の活動に加え、今年は音楽活動を再開するかも。同じく芥川賞を受賞した辻仁成や町田康のように、マルチな活躍が期待されるのだ。