15年前、ケビン・ハインズさんは悩める10代だった。双極性障害や鬱病と診断され、恋人とも別れてしまい、絶望の中で彼は自らの命を絶とうとするまで追い込まれる。そうして彼は自殺の名所として名高いゴールデンゲートブリッジへと向かうバスに乗った。
世界一飛び降り自殺の多い建造物といわれるこの橋に立ったとき、彼はすでに涙ぐんでいた。しかし泣いているハインズさんに旅行中のドイツ人女性が「写真を撮って欲しい」と頼んできたとき、彼の脳に「死ななければならない」という声が響いたという。そして、彼は飛び降りた。
水面まで約67メートルという高さ。着水時の速度と衝撃は相当なもので、着水時点で多くの人が命を落とすといわれている。ハインズさんもやはり脊椎に多くのダメージを受けたが、にもかかわらず不思議と身体は水面上に浮いていたそうだ。水面下から“何か”が自分を押し上げている感覚を覚え、ハインズさんは「なんてこった、サメが私を飲み込もうとしてるんだ」と思ったという。
しかし、救助にやってきた沿岸警備隊が見たのは、痛みと低体温症で朦朧としているハインズさんと、それを支えているアシカだった。橋の上から見ていた多くの人が「船が到着するまで、アシカはハインズさんをずっと背に乗せていた」と証言しており、本人もその記憶はあると語る。
「たくさんの奇跡で救われたのです。飛び降りた時にすぐ近くを通った運転手が電話を掛けてくれなければ沿岸警備隊は間に合わなかった。病院に運ばれた先にたまたま医者が残っていて、14時間に及ぶ手術の結果、後遺症もなくそのまま歩けるようにしてくれました。そしてアシカ。海洋生物が時として溺れている人を助けてくれる例は統計上明らかだそうですが、私の場合はアシカでした。間違いありません」
ハインズさんは手術の成功後、精神病棟へと移り、それから家族の元へ戻った。しばらくして父親と教会の勧めで自分に起きたことを子どもたちに伝えると、その話は子どもに大きな感銘を与えたという。それからハインズさんの人生は変化していった。病気をうまくコントロールして症状を軽減し、自分の人生を肯定することに成功。現在は自殺予防などの運動に携わっており、オーストラリアで行われた講演で自分の身に起きた話をすると、豪ABCなど多くの媒体で取り上げられた。
ネットでは「今、あなたが健康で、誰かを鼓舞している。その事が本当に素晴らしいよ」「イルカが同じように助けてくれたという話を聞いたことがある。本当に幸運なことだと思う」「アシカに敬意を」といった反応が寄せられている。