全店員受刑者のレストラン訪問、地元客も「値段の割に質がいい」と笑顔。

2015/01/23 17:27 Written by Narinari.com編集部

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昨年夏、インドの首都デリー近郊に一軒のレストランがオープンし、ロイターなど多くのメディアに報じられ、世界的に話題を呼んだ。日本ではそれほど注目を集めたわけではないが、そのレストランは刑務所によって運営され、従業員も全員受刑者という珍しいコンセプトを売りにしている。このたび、ナリナリドットコムの海外特派員が、実際に同地を訪問。レストラン関係者らに話を聞いてきた。

このレストランは2014年6月中旬、デリー中心部のコンノートプレイスから約15km離れたTIHAR地区にオープンした。店名は「TIHAR FOOD COURT」で、「Jail Road(刑務所通り)」沿いに静かに佇んでいる。その「刑務所通り」という言葉が示す通り、近くには南アジア最大の刑務所であるTIHAR刑務所があり、「TIHAR FOOD COURT」は同刑務所によって運営されているのだ。

同レストランはベジタリアンのインド料理ファストフード店で、現在は8人の従業員が働いている。年齢は20代後半〜60代と幅広いが、皆すでに10年以上の刑期を務めてきた重犯罪者たち。残り数か月〜半年ほどで出所できるらしく、彼らは単にこのレストランで働いているというよりも、近づく社会復帰へ向けた刑務所の支援プログラムの一環として実務に携わっていることになる。給料も僅かだがきちんと支払われているようだ(1日約2ドル)。

とは言え、TIHAR刑務所の受刑者全員がこの「TIHAR FOOD COURT」で働けるわけではない。業務上一般人と直に接するため、受刑者の中でも特に模範的な人物たちだけが選ばれ、また、彼らはホテルマネージメントスクールでカリキュラムを習得する必要がある。その上で晴れてレストランに立つことができるのだ。実際、オープンして半年以上が過ぎたが、マネージャーの話では「これといった問題は特におきていません」という。

チャイ(インドのミルクティー)を飲みながら、受刑者たちに出所後の将来について尋ねてみたが、「タクシーの運転手になりたい」「家電ショップで働きたい」「故郷に戻って農業をするつもりです」など、出所後の未来を皆すでに思い描いているようだった。

出所しても刑務所は仕事を紹介してくれないため、あくまで自分たちで新しい仕事を探さなければならないが、長く刑務所生活を送ってきた彼らにとって、出所後の生活は希望に満ち溢れているのかもしれない。それはありきたりなテレビドラマを、目を輝かしながら眺めていることからもひしひしと感じられた。

レストランの隣では、やはり受刑者たちが刑務所内のファクトリーで作った家具や生活雑貨、食品などが安い値段で販売されていた。仏陀やヒンドゥー教の神様、マザー・テレサなどの絵も販売されており、これらもすべて受刑者たちが刑期を務めながら描いた作品。値段は日本円にして数千円程度で、「荷物にならなければ家に1枚欲しいな」と思わせてくれるほどクオリティが高かった。

せっかくなので店内にいたひとりの男性客に声をかけてみたが、「ここにはよく来るんです。値段の割に質がいいのでね」とニッコリ。また、この店のコンセプトについてどう思うかと尋ねたところ、「もちろん、被害者やその遺族の立場ではあまり良い気がしない人もいるでしょう。ただ、私個人の意見では、彼らが法を犯し、法によって裁かれて刑務所に入れられた以上、法によって守られる権利もあるのではないでしょうか。私は彼らの罪がどんなものなのかはまったく知りません。中には出所後にまた罪を犯す人もいるかもしません。だからといって、彼らの未来を奪っていいのかと聞かれれば、そうでもありません。私は普通の客としてここで買い物をし、ただただ彼らの未来が良くなることを願うばかりです。その手助けがほんの少しでも出来るのだとすれば、それで本望です」と答えてくれた。日本の感覚からすれば物議を醸しそうなレストランだが、ここインドにはまた違った見方があるのかもしれない。

最後に「TIHAR FOOD COURT」までのアクセスを記しておきたい。タクシーを使わないのならば、コンノートプレイスの「Rajiv Chowk(ラジブチョーク)」駅から地下鉄ブルーラインに乗り、「Tilak Nagar(ティラクナガー)」駅まで向かうのが最も簡単な方法。ティラクナガー駅側は小さな家電ショップや家具屋が立ち並ぶエリアで治安は悪くなく、駅前からリキシャーに乗れば約10分で「TIHAR FOOD COURT」に到着できる。駅からの距離は2.5kmほどだ。

ちなみに、「TIHAR FOOD COURT」は地元ではそれほど知られていないため、リキシャーのドライバーには「Indraprasthaガスステーションの向い」と伝えると良いだろう。営業時間は11時〜22時で年中無休。ターリー(定食)は約280円、チャイは約30円と格安だ。

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