7月中旬にパキスタンで放送された、著名な男性ジャーナリストが司会を務めるトーク番組が、いま、世界で話題を呼んでいる。集まった観覧客に向けてさまざまな社会情勢をユーモアを交えながら解説して、パキスタンでは大きな人気を集めているという番組のその日のテーマは、捨てられる赤ちゃんたちの話。途中、実際に保護された赤ちゃんを登場させたジャーナリストは、出演していた14年間子どもを授からなかった夫婦へ手渡すと話し、観覧客たちから暖かい拍手が送られた。
パキスタン通信社ザ・ニュース・インターナショナルや英紙デイリー・ミラーなどによると、話題の番組は人気ジャーナリストのアーミル・リャクアット・フセインさんが司会を務める、パキスタン放送局Geo TVのトーク番組「アマーン・ラマザン」。作家としても活躍している彼は「パキスタン最高の論客」(番組公式サイトより)との呼び声も高く、彼が司会を務めるこの番組にも毎回数千人もの観覧客が詰めかけ、人気だという。
そんな番組が世界的に話題を呼ぶきっかけを作ったのが、7月21日放送分での出来事。前週14日に番組が取り上げた「ゴミの山に捨てられていた」女の子の赤ちゃんと14年間子どもを授からなかった夫婦をステージに呼びこむと、夫婦に赤ちゃんを“プレゼント”として手渡したのだ。パキスタンでは、未婚での出産や不倫相手との子どもを作った女性が周りの目を気にして捨て去るケースや、将来の就職難や経済的な負担を見越した親によって、女の子が捨てられるケースが「毎月数百人」規模であるそうで、捨て子の問題が深刻になっているという。
番組では、赤ちゃんを保護していた福祉協会の役員も登場し、「赤ちゃんを捨てないで」と訴えながら多くの赤ちゃんが保護されている現状も説明。突然赤ちゃんを譲られた夫婦の反応はというと、予想もしなかった方法とはいえ、待望の赤ちゃんを“授かった”とあって大喜びしていたそうだ。
子どもが欲しくても全くできる気配がなく、周囲からは「再婚をした方がいい」と言われ続けながら妻と共に耐えていたと話した夫は、今回の一件、現実を理解するまでに時間がかかるほど驚き、妻は「ラマダンの贈りもの」と話して涙を浮かべていたという。
今年は7月10日から8月7日まで行われる、イスラム教の習慣ラマダン。養子の赤ちゃんを受け取った妻にとっては、今年のラマダンが格別のものとなったようだが、今回の出来事を視聴率争いが最も激しいラマダン期間を狙った、赤ちゃんの命を軽々しく扱うテレビ局の「最悪のメディア倫理違反」と非難するジャーナリストもいる。
もちろん諸外国の反応も、パキスタンの社会情勢を踏まえながらも、賛否両論といったところ。ただ、すぐに赤ちゃんを「ファティマ」と名付けて喜ぶ夫婦の姿に、スタジオにいた観覧客たちは大きな拍手を送っていたそうで、現地では今回の“プレゼント”を肯定的に捉えた人が少なくなかったこともまた事実のようだ。