西田敏行の被災地への想い、「遺体 明日への十日間」東北3県舞台挨拶。

2013/02/25 10:53 Written by Narinari.com編集部

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福島、宮城、岩手の3県で2月24日、映画「遺体 明日への十日間」の特別舞台挨拶が行われ、君塚良一監督、主演の西田敏行が登壇。作品への想いや被災地への想いを語った。

この日、1日で3県、3劇場を回った君塚監督と西田。震災から2年、この作品を手がけた理由を君塚監督は「震災のとき、私は東京にいてニュースを見ていました。ですがやはり正直、距離感を感じていました。何かしなければいけないのにできないという後ろめたい気持ちがある中で、石井さんの原作に出会いました。僕が東京にいた十日間のあいだに、同じ日本で、厳しく辛い状況の中に生きていた方々がということを知り、とても驚き、石井さんがあのとき見たものを映像にすることで、たくさんの人に伝えたいと思ったことがきっかけとなりました。僕は脚本家・監督として伝えることはできる、と思い、この作品を作る決意をしました」と説明する。

そんな同作への出演オファーを受けた理由を、西田は「事実のみを伝えるルポルタージュと違い、映画には作り手の作為が入ってしまうというジレンマがあります。ですから、ご遺族の気持ちや、役者が芝居っぽくすることで事実を捻じ曲げてしまうのではないだろうかという思いもあり、正直映画化にはいささかのためらいがありました、ですが監督の『映画がなすべきことはここにある』という力強い言葉を聞いて、もしかして映画化によって事実とは違う真実をお伝えできるのではないかという自信に変わりました。出来上がった作品を観た今、この映画に参加することができて本当に良かったと強く思っております」と語った。

演出をするにあたっては、「役者の皆さんには、とにかく嘘をつかない、心に嘘をつくことは被災者の方々に失礼になるということをお伝えしておりました。俳優の方々が人間として感じたままに演じていただき、それを我々カメラが追いかけるという手法をとりましたので、ドキュメンタリーのような映画になったと思います」と君塚監督。

本作は、撮影現場で西田の思いや意見によって変更になったシーンもあるそう。「僕も遺体安置所のセットに行ったとき、遺体が並んでいるところに土足で上がることがどうしてもできなかったんです。脚本では、私が演じた相葉が履いているスニーカーが少しずつ汚れていく、という設定だったのですが、監督と相談した結果、ずっと裸足でいさせていただくことになり、撮影中はずっと裸足でおりました」と振り返った。

西田が演じた遺体安置所の世話役・相葉常夫は、釜石市の民生委員・千葉淳さんがモデルとなっているが、「初めて千葉さんにお会いしたとき、もしかして前世は親戚だったんじゃないかと思ってしまうくらいとっても自分に似ていました(笑)。千葉さんが長兄でぼくが末っ子のような(笑)。最初のあいさつをしたとき、僕はただ『ありがとう』と言ってハグをしたんです。そのときに千葉さんの体温を感じて、千葉さんの持っている死生観であるとか、哲学をすべて引き受けた感じがありました。それは『これでいけるぞ』という確信になりました」とも。

最後に君塚監督が「僕自身、震災以降、どこか被災地との距離感を感じていました。時が経っても、興味が薄れていってしまってはいけない、と自分を律するためにこの映画を作りました。これからもずっと永遠に悲しみ、辛い思いでいる人たちのことを僕らは忘れてはいけない。そのためにもこの映画をたくさんの人に観ていただければいいなと、そのためにこの映画を作りました。スタッフ・キャスト全員で震災と向き合いました。映画は記録であり、伝えるもの。この作品を記録として残して、たくさんの人に伝えていくというのがこの映画の役目だと思っております」。

西田が「2011年3月11日14時46分まで、震災で亡くなった方々は今日自分の人生を終えるなんて誰一人としてお考えになっていなかったと思います。その方々の理不尽な死に対して、ちゃんとその人たちの声を聞きとろうとし、尊厳を守ろうとした、素晴らしい崇高な行為は、さまざま遺体安置所でなされたと思います。僕は千葉さんを演じさせていただいたことは、俳優として大きなエポックメイキングとなりました。実に、人生を変えられる瞬間でもありました。復興という言葉は名ばかりで、まだまだ長い月日がかかると思います。亡くなった方々の思いを胸にめげることなく、一歩一歩力強く、復興の日を信じて生きていきましょう」と思いを伝え、舞台挨拶を締めくくった。

映画「遺体 明日への十日間」は、石井光太の「遺体 震災、津波の果てに」(新潮社刊)が原作。西田のほか緒形直人 勝地涼 國村隼 酒井若菜 佐藤浩市 佐野史郎 沢村一樹 志田未来 筒井道隆 柳葉敏郎らが出演している。全国公開中。

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