1月10日(現地時間)に「第85回アカデミー賞」のノミネーションが発表され、4,000人の中から選ばれた奇跡の少女と、演技未経験者の新人キャストが世界の賞を総なめにしてきた「ハッシュパピー バスタブ島の少女」が、作品賞、脚色賞、監督賞、主演女優賞の4部門にノミネートした。
主演のクヮヴェンジャネ・ウォレスはアカデミー史上最年少(9歳、撮影時は6歳)での主演女優賞ノミネートで、受賞すればもちろん史上最年少。また、29歳のベン・ザイトリン監督が監督賞を受賞すれば、こちらも史上最年少での受賞となる。
本作は、世界の果て、バスタブ島にすむ少女ハッシュパピーが主人公。「ある夜、嵐は少女の前からすべてをさらっていった。大好きな場所、大好きな音、大好きな人たちまでも……。だけど、あの日パパがくれた言葉とママがくれた温もりが少女を誰よりも強くする。少女の勇気と優しい野獣たちがバスタブ島に奇跡を起こしていく」といったストーリーが描かれる。
2012年1月、インディペンデント映画の祭典「サンダンス映画祭」は、わずか製作費200万ドル(約1億6,000万円)、29歳の新人監督が創り上げた一人の少女の物語に瞬く間に虜になった。少女ハッシュパピーの目線を通して描かれる創造豊かでファンタジック、それと同時に厳しい現実をも描き出したオリジナリティあふれる本作に観客はすぐさま熱狂。同映画祭では最高賞であるグランプリと撮影賞に選出された。
そして同年のカンヌ映画祭でも、カメラドール(新人賞)など4冠に輝く偉業を達成。さらに続く世界各国の映画祭でも多くの賞を獲得するなど、まさに“シンデレラ・ムービー”の様相を呈している。
「ハッシュパピー バスタブ島の少女」(配給:ファントム・フィルム)は2013年4月に日本公開。
☆主演の少女ハッシュパピーが決まるまで
主演の少女ハッシュパピー探しは2009年の早い時期からニューオリンズで始まった。しかし、4か月が過ぎ、才能のある子どもたちには出逢えたものの、ハッシュパピー役に適した少女はまだ見つけられず、探す地域は次第に拡大。地元の警察署長と一緒に公立小学校でチラシを配り、教会や図書館でオーディションを行った。4か月が1年となり、製作スタッフはさまざまな場所をくまなく回り、戸別訪問すら行ったという。
そして4,000人の子どもを経て、やっと見つけることができた少女がクヮヴェンジャネ・ウォレスだ。明らかに印象的な容姿に恵まれた彼女は、無類の集中力と感情豊かな知性を兼ね備えた小さな自然児。彼女のユーモアあふれる天性のカリスマ性は誰もが魅了されるものだった。
加えて、ハッシュパピーの父親役ドワイト・ヘンリーも演技経験ゼロ。彼はオーディション会場として使っていた廃校になった学校の建物の通り向かいで、おいしいパン屋を経営している人物だ。オーディションでは、ハリケーン・カトリーナがニューオリンズを襲った後の話や、パン屋にかける意気込みなど途方もない物語が語られていた。
それから6か月後、彼を再オーディションするために連絡を取ろうとしたが、なかなか彼を捕まえることができないでいたという。彼のほうは深夜からお昼まで(パン屋時間)働き、その後は寝ていたためだ。姿を現した彼は、感情的な脆さやスクリーンでの存在感を披露。製作チームは当初、父親役はプロの役者がやるのが得策だと考えていたが、一転、ヘンリーを起用することにした。
演技指導は、彼がパンを焼いている午前2時から5時までパン工場で実施。この状況でこそ生まれた父親役をヘンリーはこの映画の中に見事に織り込み、自分の役柄を作り上げた。そのほかのバスタブ島の住人たちもニューオリンズの地元の人々から起用されている。