低視聴率「鈴木先生」のすべて、原作者や監督らの映像化へのこだわり。

2012/12/06 03:44 Written by Narinari.com編集部

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2013年1月12日に公開される映画「鈴木先生」の原作者・武富健治氏、河合勇人監督、山鹿達也プロデューサー(テレビ東京)が12月5日、上智大学で行われた特別講義に登壇。学生約100人を前に、「鈴木先生」の“すべて”が語られた。

この日の講義は、同大学文学部の碓井広義教授が教鞭を取り、テレビドラマをテーマに、ドラマにおけるストーリーを軸にしながら文化論・社会論など幅広く考察していく「大衆文化論」講座の一環として行われたもの。碓井教授は昨年春のドラマ「鈴木先生」オンエア開始直後にいち早く新聞で紹介するなど、最も早くドラマに注目をした“一番最初のファン”とも言える人物で、ギャラクシー賞の審査員も務める縁から、今回の特別講義が実現した。

◎原作マンガ・テレビドラマ誕生について

学校という社会をリアルに描いたドラマ「鈴木先生」を観て、碓井教授がまず感じたのは「原作者は教師の免許を持っているのか?」ということだったそう。その問いに、武富氏は「(鈴木先生と同じく)中学の国語の免許は持っています。しっかりとした内容を求められる青年誌でマンガを書くにあたって、自分にはそれしか持ちネタがなかったんです(笑)。先生を探偵役に据えてみたら面白いかもしれないということに端を発して、単発から始まり、連載が始まりました。シリーズ化するにあたって、鈴木先生の欠点として、生徒に妄想してしまう要素を付け足していったんです」と、マンガ家になっていなかったらやってみたかった第2の職業が国語教師であったことを明かしつつ、原作マンガ誕生当時を振り返った。

マンガがテレビドラマになるプロセスについて、河合監督は「2009年に、本屋でたまたまこのマンガを手に取って、先生や生徒がとにかく熱くて。自分の状況を重ねて、キャラクターがたくさん汗をかいている感じに共感したんです。これをぜひ映像化したいと思って、ROBOTの守屋圭一郎プロデューサーに持ちかけたら意気投合できました」と振り返る。もともと映画化を目指していた「鈴木先生」だが、濃厚な原作の世界を約2時間という映画の枠に収めるのは難しいため、まずはテレビドラマを作ることになったという。

そこでドラマを手掛けることになったテレビ東京の山鹿プロデューサーは、「2010年、テレビ東京として10年振りにドラマ枠を再開させるに当たって、“社会派エンターテイメントを作ろう”というテーマがありました。『鈴木先生』が描くのはヘビーなテーマではあったけど、企画会議では全会一致でした」とコメントすると、「そういえば当時は、“エッジの利いた”という言葉をよく耳にしました」と河合監督。

武富氏は「マンガの過激な部分は、ドラマになる時はなくなるんだろうと思っていたんですが、そこが残っていて、ソフトな部分はほとんどなくなっていました(笑)」と振り返ると、「過激な部分を描くことが“スズセン”をやることでしょ?というのは前提としてありましたね」と河合監督、さらに武富氏は、「脚本を担当した古沢良太さんが、原作のテーマをしっかり理解してくださっていました。枝葉は違うものになったとしても、観客の元に届いた時に原作と同じテーマが届いてくれればいいと思っていたら、まさにその通りになっています」とドラマの世界観を絶賛した。

◎出演者・スタッフなどについて

山鹿プロデューサーによると、キャスティングで一番難航したのは鈴木先生だったそうで、「チャレンジングな作品なので、余りにも有名な方が演じてしまうと、“あの役のあの人だ”という印象を持たれてしまうのはマイナスだと思っていました」と、当時「セカンドバージン」で注目を集め始めていた長谷川博己を起用した理由を告白。

1,000人以上によるオーディションにより選ばれた緋桜山中学の生徒たちについては、河合監督は「子どもたちが主役の作品でもあるから、彼らと一緒に取り組む事前の稽古に一番時間がかかりました」と振り返る。また、鈴木先生の実験教室に不可欠なスペシャルファクター・小川蘇美を演じた土屋太鳳については、「オーディションをだいぶやった中でもイメージに合う子が見つからずに焦っていました。最後の方に彼女がやってきた時は、“あ、来たな”と思いました」と語り、オーディション風景をDVDで観たという武富氏も、曰く「一発でいいな、と思いました」と太鼓判だったそうだ。

ドラマの人気キャラクターである足子先生を演じた富田靖子については、河合監督が「一番ノリノリでやってくださいました。相当内容に惚れ込んでくれていて、“私ならこうやる!”と口紅の色まで指定してきたり(笑)」と語ると、武富氏も「実際に足子先生がいたとしたらこういう感じだろうな…というイメージはあったけど、まさにお湯をかけて元に戻してもらった感じです(笑)」と揃って絶賛。

鈴木先生のトレードマークであるループタイについて、武富氏は「僕の祖父がやっていて、ずっとカッコいいなと思っていたんです。今でこそ若い人たちも使うようになってきたけど、昔は年配の方しか使わないもので…。学生の時に1人でループタイを着けて流行らせようと頑張ったけど、誰も付いてきてくれませんでした(笑)」と語り、生徒たちの笑いを誘った。

◎テレビドラマから映画へ

ドラマの視聴率は、連続ドラマとしては歴代2番目の低視聴率で、碓井教授の言葉を借りると“この視聴率だとプロデューサーの首が飛ぶ”レベルにも関わらず、最終話まで放送され、さらに映画化が実現した。そのことについて、山鹿プロデューサーは「テレビドラマで好評を博したら映画化されるというルールのようなものがあります。このドラマは視聴率の面では振るわなかったけれど、熱烈なファンの方が応援してくれて、インターネットでの書き込みもすごかった。そういう人たちのためにもやめられないという想いでした」と映画化への想いを語った。

ドラマから発展形としての映画を作るにあたって、河合監督は「機材からスタッフまでドラマと全部一緒。映画だから肩に力が入って…ということもありがちですが、今回は、ドラマでは描けなかった事件も多いから、それをどう盛り込んで、2年A組を掘り下げていくかというドラマの核を映画でも踏襲したかった」とコメント。

質疑応答の場面では、「生徒たちが抱える問題はどこから来ているんですか?」という質問が武富氏に向けられた。武富氏は「20歳を過ぎてから30代半ばまでに体験したことを元に、それを中学校に置き換えています。観ている人の心に直接刃を当てたいと思ったから、あくまでも大人の問題として描いています」と説明。そのほか「原作者・監督・プロデューサーの3人のうち、誰に一番お金が入るんですか?」といったメディアを志す学生ならではのストレートな質問も相次ぎ、和気あいあいとした講義となった。

最後に3人から学生たちに一言ずつメッセージが語られました。武富氏は「普通のドラマでは味わえない、あえてきめ細かく描くエンターテイメントがドラマになって映画にもなって、より広がりを持ちました。若い頃は、周りの誰も知らないものを自分だけが好きでいる優越感のようなものも持っていたけど、今は、自分がいいと思えるものを皆と共有できたらと思っています」、河合監督は「ドラマにはないスケールアップしたアクションシーンも観てみらいたいと思いつつ、セリフをしゃべってない子も細かく演じてくれているから、“今後はこの子を見てみよう”といった風に、何度も観て欲しいです」、山鹿プロデューサーは「今の時代、テレビは決して安定した業界ではありませんが、ドラマは後の時代にもずっと残っていくもの。予算や時間といった理由で妥協はしたくない。挑戦していくことを改めて教えてもらった作品です」と語り、講義を締めくくった。

「鈴木先生」は、2007年文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞した作品。どこにでもいそうな平凡な教師が、どこにでも起こり得る問題について過剰に悩みつつ、独自の教育理論によって解決していく様を描いたドラマ版は、視聴率平均2%程度とふるわなかったが、日本民間放送連盟賞テレビドラマ番組部門最優秀賞受賞(2011年)や、第49回ギャラクシー賞テレビ部門優秀賞受賞(2012年)を受賞するなど作品の評価は極めて高く、また、熱烈なファンも多い。脚本は映画「ALWAYS 三丁目の夕日」シリーズや「キサラギ」「探偵はBARにいる」、ドラマ「相棒」シリーズや「リーガル・ハイ」などヒット作・話題作を連発する古沢良太が担当。新春には、ドラマと映画のストーリーを繋ぐ短篇ドラマが放送されることも決定している。

映画「鈴木先生」は2013年1月12日(土)より、角川シネマ新宿・丸の内TOEI・渋谷TOEIほかにて全国ロードショー。

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