“サマータイム”で健康障害も、日本睡眠学会「睡眠不足に拍車」。

2012/07/28 19:52 Written by

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欧米などで実施されているサマータイム(夏時間)制度は、夏季に時計を1時間進めて日中の時間帯を有効活用するというもの。近年、わが国でも導入の動きが出ているが、これに反対してきた日本睡眠学会は7月23日、小冊子『サマータイム―健康に与える影響―』を公表した。2008年に同学会が報告した「サマータイム制度と睡眠―最終報告―」を平易にまとめたもので、サマータイム導入がもたらす悪影響について、一般国民の理解を得るのが狙い。学会の特別委員会の本間研一委員長(北海道大学大学院客員教授)は、小社の取材に対し「サマータイム制度が問題なのは睡眠不足をもたらす可能性があるためで、早く起きるなら早く寝ることが必要」とのコメントを寄せた。なお、小冊子は学会公式サイトからダウンロードできる。

◎健康問題はほとんど議論されず

サマータイム導入で起こる可能性がある健康障害として学会が指摘しているのは、(1)生体リズムへの影響、(2)眠りの質への影響、(3)眠りの量への影響―の3点。欧米に比べて国民の短睡眠化・夜型化が進行しているわが国がサマータイムを導入した場合、早寝が伴わず早起きのみが促されるため、睡眠や生体リズムに影響し、健康障害の拡大が大いに懸念されるという。

例えば、サマータイム導入国のフィンランドでは、サマータイムに移行後、睡眠効率の低下や体重増加が認められ、通常の睡眠時間が8時間以下の短睡眠者では日昼行動の分断(集中力の欠如や眠気)が報告されている。

昨年、ロシアがサマータイム制度を撤廃したが、その理由は移行期に心筋梗塞患者が増加するなどの健康障害が生じたためだ。また、移行期に生体リズムが急激に変化することで生じる体への影響は、子供や高齢者、患者などの健康弱者で特に大きいことがフランスの欧州連合(EU)上院議員団報告の中で示されている。

こうした事実があるにもかかわらず、わが国にサマータイムを導入しようとする検討の中で、健康問題についてはほとんど議論されていないと学会は指摘する。

そのため、学会はサマータイム導入に伴う健康問題を検討する委員会を設置。「サマータイム制度と睡眠」の中間報告を2005年にまとめ、08年に最終報告を発表した。同年6月には学会として制度の導入に反対する声明文を出すなど、これまで健康障害に対する議論の必要性を社会に訴えてきた。

◎「繰り上げ出勤」では4人に1人が睡眠不足に

サマータイムとは、欧米で実施されている「daylight saving time」のことで、夏季に太陽が出ている時間帯を有効に利用することを目的に、ある地域(国)全体で一定期間時刻を一斉に変更する制度をいう。

したがって昨年、わが国の一部の企業が実施した、時刻はそのままで始業時刻を早めたものはサマータイム制度ではなく、「繰り上げ出勤」と呼ばれるものであるが、実際には混同されていた。繰り上げ出勤の場合についても早寝が伴わなかったために、4人に1人が睡眠時間の短縮を実感していたことがインターネット調査で示されている。

学会は、わが国の夏は夜になっても気温が下がりにくく、サマータイムを導入するならば早寝をどう可能にさせるかが大きな課題と指摘している。

なお、厚生労働省の「人口動態推計2010」に上げられた日本人の死因10項目のうち、悪性新生物(がん)、心臓病、脳卒中、肺炎、不慮の事故(窒息、転倒、転落、水死など)、自殺の6つは睡眠不足との関連性が指摘されている。

◎「退社後の余暇が増える」は錯覚

学会は、サマータイム導入は睡眠不足に陥る可能性が高いのに加え、睡眠軽視傾向にある日本人では睡眠不足に拍車が掛かることに言及。議論を通じて、国民全体で睡眠に対する関心が高まることに期待を寄せている。

本間委員長は、小社の取材に対し次のように答えた。

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平易ではあるが、理屈をはっきりと述べたものを一般の人に読んでほしいと思い、小冊子『サマータイム―健康に与える影響―』を作成した。「サマータイム制度と睡眠―最終報告―」は議論の正確さを追求したため、専門的なところがあるだろう。平易さと不確実さは裏腹の関係にあり、小冊子で疑問に感じたところは最終報告で確認し補っていただければと思う。

サマータイム導入による健康障害で一番多いのは、短期的なものだと睡眠不足とそれに伴う昼間の眠気。無理な早起きはやめて十分に睡眠を取ること、早寝を推奨し目覚まし時計がなくても起床できる状態に持っていくことが望ましい。もともと睡眠覚醒リズム障害のある人ではサマータイムによって症状が悪化したり、これを機に発症する可能性がある。健康障害の背後に睡眠覚醒リズム障害がないかどうかを調べるのも重要なことだ。

サマータイムが問題なのは、睡眠不足をもたらす可能性があるから。サマータイムで「退社後の余暇が増える」というのは錯覚だ。1日は24時間しかない。早く起きるなら早く寝ることが必要。むしろ早く寝ることを心掛け、結果として早起きできるように持っていくのが理想的だ。また、早寝早起きを続けるには、同時に体内時計を進める必要がある。これには通常1週間ほどかかる。体内時計が元のままだと、早寝早起きをしても時計と睡眠のミスマッチで身体に負担が掛かる。

※この記事(//kenko100.jp/news/2012/07/27/01)は、医学新聞社メディカルトリビューンの健康情報サイト「あなたの健康百科」編集部(//kenko100.jp)が執筆したものです。同編集部の許諾を得て掲載しています。

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