インベーダーがパリを“侵略”、深夜の街にこっそり貼り付ける芸術家。

2011/08/16 12:17 Written by Narinari.com編集部

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パリの街を歩いていると、クラシックな街並みに時々懐かしい絵を見つけることがある。それは日本人には見慣れた、ドット絵テイストのゲームキャラの数々。場所によってはパックマンのオバケたちだったり、マリオだったりもするが、そのほとんどはインベーダーだ。かねてから、このインベーダーがどのような経緯で街に飾られているのか疑問に思っていたのだが、その謎がようやく解ける機会に恵まれた。

答えを与えてくれたのは、先日パリで開催された展覧会「Invader 1000」。ある覆面芸術家が、1,000体のインベーダーをパリの街に飾った記念に開いた個展だ。この作家はバンクシースタイル(ストリートアートを世界各地にゲリラ的に描く手法)で深夜にこっそりとパリの街へ繰り出し、街のあちこちにインベーダーを貼り付ける活動を続けている。それが累計で1,000体の大台に到達したというわけだ。

最初の作品は1998年、日本で「スペースインベーダー」が発売された20年後を記念したものだった。以降、このインベーダー氏(匿名のため、インタビューなどではこう記されている)はパリの街を少しずつ“侵略”。その活動はパリ以外にも広がり、南米を除くすべての大陸、40か国で同様の小さな“侵略”が行われてきた。もちろん日本も例外ではなく、渋谷や代官山などで目撃情報があるという。

「Invader 1000」の会場に足を踏み入れてみると、廃工場やガレージ的な雰囲気の中、巨大なルービックキューブやインベーダーのミラーボール、千社札販売機、インベーダーが刻印された1,000個のスーパーボールのオブジェなどが展示されている。

インベーダー氏は芸術家として作品を制作しており、コンセプトは“2次元のゲームの世界を、我々が生活する世界に還元する試み”。この展示会のために特注で作られたスペースインベーダー型のベルギーワッフル焼き器も、その試みのひとつだ。ワッフル表面の凹凸でドット絵的な世界観を保ちながら、遊び心と実用性を兼ね備えた素晴らしい作品になっている。

展覧会の目玉は、なんと言ってもインベーダー氏が街に残してきた1,000体のインベーダーの写真。これはまさに圧巻で、インベーダー以外にもマイティ・ボンジャックやカラテカといった懐かしいゲームのキャラクターもある。

展覧会のカタログによると、インベーダー氏はパリでの活動を最も重要視しているそう。それはパリがロンドンのように無軌道な色彩のはびこる街ではなく、パリの人々の感覚が洗練されているからだという。そんな街をぶらりと歩き、インベーダーを発見したときにもたらすもの、あるいは誰にも気づかれずにただそこにあることこそが、名前を名乗らず金銭を求めないインベーダー氏にとって最高の芸術なのだ。

「どの街に旅行してもタイルを背負っていく」というインベーダー氏の活動が、今後どのように続いていくのかはわからない。しかし、パリでのインベーダーの“侵略”はひっそりと根付いていくのではないだろうか――そう感じさせる展覧会だった。

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