ニュースを見ていたら、リポーターの後ろにまた“あの男”の姿が――。昨年10月頃から、ロンドン市内で行われるニュース中継に素知らぬ顔で映り込み、リポーターの後ろからカメラを見つめていた謎の男がいる。今年5月、男性に気が付いたコメディアンがテレビで紹介したことをきっかけにネットでも話題を呼んでいたのだが、その正体がついに突き止められた。
この男性が一躍注目されだしたのは、彼の出現に気が付いたコメディアンのラッセル・ハワード氏が英放送局BBCの番組の中で紹介してから。ロンドン市内のテレビ局前や事件現場からの中継があると、どこでそのことを知るのか、なぜか彼は画面に映り込み続けた。
太り気味で、頭髪は薄く、決して格好良いとは言えない風貌の男性は、リポーターを邪魔するわけではなく、何気なく存在をアピール。カメラをじっと見つめるときもあれば、買い物に行く途中のようにカートを引っ張っていたり、新聞を読んだりと、わざとらしい“演出”をすることもあった。中継先の把握はもちろん、絶対にリポーターには重ならないように動くなど、その手口はもはや素人の域を超えている。
今年5月に男の話題を伝えた英紙サンによると、彼が初めて登場したのは昨年10月のこと。ある政治家のテレビ出演に反対する人々が、BBC前でデモを行うニュースの中継がすべての始まりだった。それ以来、彼はBBC以外の英テレビ局がロンドン市内で行う中継先にも頻繁に姿を現し、カタールの衛星テレビ局アルジャジーラのニュース中継にも出演した経験があるそうだ。
こうしてちょっとした有名人となった男性は、インターネット上でもその正体を巡って話題を呼ぶことに。「いったい彼は何者なのか」。そんな議論が繰り広げられている間、今月も飄々と現れ続けた男性だったが、ついにブロガーが彼のFacebookページを突き止めたことで、彼の身元が明らかになった。
サウスロンドンに住むというこの男性は、38歳でケアワーカーをしているポール・ヤーロウさん。英紙ロンドン・イブニングスタンダートはヤーロウさんを直撃しているが、彼は中継に映り込んだ目的について、「美しい人だけがテレビ出演を許される、今のテレビ文化に物申したかったから」と話している。また、ヤーロウさんは20年近くにわたって言論の自由に関する運動を行っており、たびたびデモにも参加しているとのこと。その際、取材に訪れたマスコミがいつも「かわいい女の子を選んでいた」と感じ、そうした思いが今回の行動に繋がったそうだ。
画面に映り込む形での“出演”は「メディアに対する声明」(ロンドン・イブニングスタンダード紙より)と語ったヤーロウさん。今回正体が分かり、ファンから「あなたはレジェンドだ」(英紙メトロより)というメールが届くなど、出演を楽しんだ人から温かい声をもらっているという。しかし、「正体は明かされたくなかった」とも話し、ラッセル・ハワード氏がテレビで紹介したときは「本当に怒った」とも。
身元も明かされてしまったため、今後の中継出演は「続けないだろう」としており、彼の姿をテレビで見る機会はもうなくなってしまったようだ。