何の見返りを求めるわけでもなく、自分が住む街のために活動をする人たちがいる。掃除や花壇の整備、パトロールなど、そうした活動によって住みやすい環境が守られていることは多い。英国のある男性も、そんな活動をこつこつと続けている1人。以前、街で壊れたベンチを見かけた際に「なんで誰も修理しないのか」と疑問に思ったことをきっかけに、誰にも気付かれないよう、壊れたベンチやフェンスを見つけてはこっそりと自腹で補修しているそうだ。
この男性はグレーターマンチェスター州オールダムに住む37歳の男性ステファン・リマーさん。6年前に軍を辞め、現在マンチェスターメトロポリタン大学でリサイクルの勉強をしているリマーさんは、壊れたままのベンチを見ては疑問を抱き続けていたという。そしてある日、「以前気が付いたときは無視したけど、自分がなんとかしなくては」(英紙デイリー・メールより)と思うに至り、自ら修理活動をすることに決めた。
「誰の迷惑にもならないように」と、人の少ない夜中に活動を始めたリマーさん。活動は街のためだけではなく、勉強しているリサイクルの実習にもなった。ペンキなどは自腹で購入したものの、ベンチに使う木など、集められる材料は可能な限り辺りを探して調達。およそ3か月にわたり、水路沿いの壊れたベンチのほか、公園の子ども用ブランコや展望台、フェンスなど、18か所を修理して周ったそうだ。
リマーさんの活動は、妻や数人の友人といった身近な人間しか知らなかったという。しかし彼が修理したものが増えていくに従い、地元住民の間でも「誰が綺麗に直しているのか不思議に思った」(英紙デイリー・テレグラフより)人も徐々に増えていったらしい。いつしか、自治体当局もこの事実を掴み、「公園管理者と学校のプロジェクトか何かだろう」(デイリー・メール紙より)と思い込んでいたそうだ。
ところが、関係部署に確認してもそんな修理をした事実は一切なし。当局は、街の代わりに修繕してくれた“ゲリラ便利屋”に名乗り出るよう、呼びかけを行った。話を知ったリマーさんは悩んだようだが、最終的に素性を明かすと決め、当局に名乗り出たという。ようやく現れた地元のヒーローを当局は「素晴らしい社会精神」と称賛。それまでの仕事代として、リマーさんに3,000ポンド(約40万円)を贈った。
当局の関係者は、人知れず行われたリマーさんの活動を「心温まるもので、素晴らしいことだと思う」とコメント。ただし、それまで街が修理を怠っていたから起きた話で、自治体にとっては今回の件が意識改革の良いきっかけになりそうだ。一方、これまでの活動を「刺激的だった」と振り返るリマーさん。7月16日には大学卒業を迎えるそうで、リマーさんが安心して自分のことに集中できるよう、自治体にはこれからしっかり修理活動を引き継いで欲しいものだ。