旅行をしていて渋滞にハマったときなど、「羽が出てきて空を飛べたら」と空想に浸る人もいるかもしれないが、そんな夢のような話が現実となる日も、もうすぐそこまで迫ってきたようだ。米国のテラフージア社が2006年から開発を進めてきた空を飛べる自動車「トランジション」をご存知だろうか。2011年の販売開始を目指し、実用訓練を順調に成功させてきたこの車。これまで実際の販売には飛行機としての車体重量基準の問題が立ちはだかっていたのだが、先日、これをFAA(米連邦航空局)が特例として承認したことで、販売実現に向けて大きな一歩を踏み出している。
テラフージア社は「トランジション」実用化を目指したマサチューセッツ工科大学出身の航空エンジニアら5人によって、2006年に設立されたメーカー。以来、空飛ぶ自動車の実用化に向けて研究を重ね、2009年3月には初飛行に成功、市販化に向けて順調に階段を上ってきた。しかし、こだわりの安全面への配慮が、市販化への壁として立ちはだかる。
手軽に空を飛べるとはいえ、飛行機として操縦するには当然免許が必要。そこでテラフージア社は、20時間の訓練で飛行免許が取得できる「Light Sports Aircraft」という軽飛行機のカテゴリー承認を目指して車体の開発を進めてきた。ここで問題になったのが、1,430ポンド(約650キロ)に抑えなければならない車体重量の規定だ。
同社の共同創設者の1人、アンナ・ディートリッヒCFOが「安全性が最大のセールスポイントの1つ」(米紙ニューヨーク・タイムズより)と語るように、「トランジション」は自動車の安全基準を完全にクリアしているという。だが、エアバッグの搭載など「軽飛行機の基準より非常に厳しい」車の安全面に最大限配慮した結果、車体重量は「Light Sports Aircraft」の重量規定を110ポンド(約50キロ)ほどオーバーしてしまった。
そこで個人飛行機製造者の団体「EAA」や、軽飛行機の所有者やパイロットが集まる団体「AOPA」などが「トランジション」の実用化を支持。そして、こうした動きも一助となったのか、今年6月にはFAAが重量規定を免除し「Light Sports Aircraft」を承認、市販化に向けた最大の障壁がクリアとなった。なお、この結果を受けて、公式サイトでは7月26日に生産される車体デザインの記者会見を行うと説明している。
巡航速度約185キロ、航続距離約740キロを実現し、2011年後半の販売開始に向けて準備が進む「トランジション」。販売予定価格は19万4,000ドル(約1,715万円)と高額にも関わらず、すでに「70人の注文」(英紙デイリー・テレグラフより)を集める人気だという。ひょっとすると、我々がちょっとしたドライブから「ちょっとしたフライトを楽しむ」と言える日が訪れるのも、そう遠くないことかもしれない。