街全体で盛り上げる欧州最大のマンガ祭、目玉のひとつに「ワンピース」も。

2010/03/07 19:21 Written by Narinari.com編集部

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毎年1月下旬に、フランスのアングレームで開催されるヨーロッパ最大のマンガの祭典「アングレーム国際バンド・デシネ フェスティバル」。フランス語圏における絵を重視した芸術性の高いマンガ(バンド・デシネ/BD)と、日本や米国などの海外のマンガ・コミックが一堂に会するという、歴史と権威のあるイベントだが、37回目を迎えた今年は1月28日から31日の日程で開催された。ナリナリドットコムのフランス特派員も、フランスにおけるバンド・デシネとマンガの盛り上がりを確認するべく、会場となったアングレームの街を訪問。その雰囲気をお伝えする。

◎街全体で盛り上げるマンガの祭典

パリからTGV(高速鉄道)で2時間半ほどの場所にある、フランス南西部の街・アングレーム。駅に降り立つとポスターや看板に迎えられ、キオスクではバンド・デシネが販売されている(※期間中のみだと思われる)など、フェスティバルの玄関口は華やかな雰囲気に包まれている。また、市役所や教会、音楽学校、博物館などを借りて展示が行われるため、バスで一周10分程度のこぢんまりとした街は、全体を使ってフェスティバルを盛り上げているといった印象だ。

ちなみに、マンガの祭典といっても日本でイメージするそれとは少し雰囲気が異なる。会場は全体的にのんびりとしていて、来場者の年齢層もかなり高め。老夫婦や中年〜年輩の友人同士などの組み合わせで訪れる人も多く、マンガ、とりわけバンド・デシネが芸術として文化の深層に根付いていることもひとつの理由なのかもしれない。なお、コスプレをしている人の姿は一度も見かけることはなかった。

◎日本のマンガの扱い

フランスでも日本のマンガは人気だが、会場で目に付いたのは「遥かな町へ」(谷口ジロー)、「AKIRA」(大友克洋)、「まだ、生きてる…」(本宮ひろ志)、「ベルサイユのばら」(池田理代子)、「独身アパートどくだみ荘」(福谷たかし)、「イキガミ」(間瀬元朗)、「あしたのジョー」(ちばてつや)、「ドラゴンボール」(鳥山明)、「はだしのゲン」(中沢啓治)、「MONSTER」(浦沢直樹)、「サイボーグ009」(石ノ森章太郎)、「ちびまる子ちゃん」(さくらももこ)、「少女椿」(丸尾末広)、「ねじ式」(つげ義春)、「ゴルゴ13」(さいとう・たかを)、「のらくろ」(田河水泡)、そして手塚治虫の作品群などなど。扱いの程度はまちまちだが、新旧の名作が一堂に会し、展示・販売・特集されている。

これにバンド・デシネの作品はもちろんのこと、「タンタン」シリーズや「ピーナッツ」(スヌーピー)、「ムーミン」「シンプソンズ」「スパイダーマン」「ハルク」といったおなじみの欧米の名作たち、中国系の作品などを加え、「アングレーム国際バンド・デシネ フェスティバル」はまさに国際フェスティバルの名に相応しい、世界のマンガの祭典といった趣になっているわけだ。



◎目玉のひとつは「ワンピース」と「幸村誠」

今回の目玉のひとつは、会場の一角に用意されたマンガビルディングでの特集。昨年は水木しげる作品が特集されたが、今年は「ワンピース」(尾田栄一郎)と、2009年に文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞を受賞した幸村誠(「プラネテス」「ヴィンランド・サガ」など)にスポットライトを当てていた。

展示は原画やパネル、ポスターなどの展示に加え、「ワンピース」のコーナーには巨大なチョッパーの姿も。

ちなみに、「ヴィンランド・サガ」はかなり過激な描写があるが、フランスでもカットされることなく、そのままの状態で出展。両作品の展示を熱心に見入るフランス人も多く、ポスターなどのグッズを買い求める人も目立った。



◎会場全体の雰囲気

全体的には作家が来場してサイン会を行ったり、インディーズ作家の作品(※日本の同人誌のほうがレベルは高い印象)即売、バンド・デシネの画集販売など、来場者と作家、出版社が交流できるオープンな雰囲気で、のんびりとした街のムードと相まって、非常に心地よい空間を作り出している。そして、日本の作品に対する“熱”もしっかりと伝わってくるフェスティバルだった。



◎グランプリと最優秀作品賞

「アングレーム国際バンド・デシネ フェスティバル」では毎年、バンド・デシネやマンガの発展に寄与した作家を一人選び、グランプリとして表彰しているが、今年はフランスの作家Baruが選ばれた。Baruは1990年代中盤に「モーニング」(講談社)に「太陽高速」を連載していた作家としても知られている。

そして優れた作品も「最優秀作品」として表彰。同部門には日本から「イキガミ」などがノミネートしていたが、残念ながら受賞とはならず、「PASCAL BRUTAL」(Riad Sattouf)が選ばれた。また、最優秀子供作品部門には「Lou」(Julien Neel)が選ばれている。



◎バンド・デシネの未来

バンド・デシネは国に認められると作家に補助金が出る制度があり(※芸術家扱いとなる)、作家の生活を支える手助けとなっている。そのため、フランスのマンガ愛好者は日本のマンガに強い愛情を抱いているものの、いざ自分がその道に進もうとなると、バンド・デシネの方向に向かう人が多いようだ。これには、マンガとバンド・デシネのフランス国内における需給のバランスも関係している。

フランスは自国の文化を非常に尊重しながらも、「良いモノは良い」と認め、他国の文化も楽しみ、受け入れる柔軟さを持つ国。日本のマンガ文化は世界的に見ても最高峰に位置しているのは確かで、日本にいるとそれだけでも満足してしまいがちだが、フランスは日本のマンガという“優秀な外圧”とうまく向き合いながら、ストーリーだけでなく「絵を隅々まで楽しむ文化」を築き上げている点は、一つの方向性として素直に素晴らしいと認めるべきところだろう。

大量消費のコミックではなく、コレクション的な存在という位置づけを今なお守り続けるバンド・デシネを育て、こうしたフェスティバルを通して愛されるモノにしようとしているところに、バンド・デシネの未来を見たという印象だ。

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