シミ付きパンツなどに裁判所も同情、劣悪な少年拘置所の人権侵害認定。

2010/01/17 15:49 Written by Narinari.com編集部

このエントリーをはてなブックマークに追加


警察に逮捕された人間は留置場に収容され、刑が確定するまでは拘置所に、そして刑が確定すると刑務所で服役する。そうした場所では厳しく管理された生活を送る必要はあるが、人間として最低限の権利が保障されるのは、現代の国家では当たり前の話だ。しかし、警察や刑務官といった管理する側の人間が、行き過ぎた体罰や拷問を与えるという話は時折伝えられる。

先日、カナダの少年拘置所に1999年から2003年まで収容されていた24人が、「劣悪な状況に置かれていた」と訴えていた裁判に判決が下った。時にはわざとシミを付けたパンツを履かせられたという原告に裁判所も同情。「人権侵害」と認定している。

今回訴えていた24人は、1999年にドラッグ密輸売買の嫌疑をかけられて捕まった43人の一部。カナダ紙エドモントン・ジャーナルによると、24人は逮捕された後、刑が確定されるまでに収容されるエドモントン少年拘置所に移送された。ところが警察の不手際も重なり、収容された少年たちは長期にわたり、劣悪な環境に押し込められる事態になったという。

実はこの時期、カナダでは新しいギャング対策法が施行され、捕まったメンバーたちはモデルケースとされていた。同じ犯罪で比較した場合、旧法下では主要メンバーを逮捕するのみだったが、新法下では適用範囲を拡大。メンバー全員を捕らえてギャング壊滅を目指す方法が取られたそうだ。

しかし、グループの一網打尽を狙ったことが、捜査を複雑化させる。地元警察や王室カナダ騎馬警察(連邦警察)は、10か月にわたりメンバーや家族の電話を盗聴。証拠として押さえた会話の録音数は28万1,000件にも及んだ。さらにこの事件では、捕まえた43人のほかに関与が疑われた120人、600人にも及ぶ証人がおり、証拠文書を作るだけでも警察は膨大な作業に追われる状態に陥った。

問題はそれだけにとどまらず、メンバーが中国・ベトナム系住民だったため、盗聴の録音テープのほとんどが北京語、広東語、ベトナム語での会話。警察は会話の翻訳にも数か月を要するなど、起訴手続きが困難を極めた。書類は数十万ページにも及び、作成している途中で証拠書類を紛失する失態も。その結果裁判で証拠を提示できず、起訴に至らなかった。エドモントン・ジャーナル紙は「捜査はほとんど滑稽と言えるもの」と皮肉っている。

その間、エドモントン少年拘置所に収容されたメンバーは、拘置所内の収容定員が大幅に上回っていた問題も重なり、劣悪な環境下に置かれていた。本来の収容人数は340人の拘置所は、「今でも800人以上詰め込まれている」(英紙メトロより)ほどの満杯状態。今回提訴していた24人は「場合によっては独房に2人入れられ、1日18時間から21時間監禁された」(カナダ放送局CBCより)そうで、レクリエーション活動などで外に出されることは一切なかったという。また、看守らの差別的な扱いも加わり、メンバーは着古した上にわざとシミを付けられたパンツを履くよう強制され、独房内の衛生環境や食事面でも苦しんだ。

警察が捜査を継続している間、24人はずっと拘置所での生活が続き、その期間は人によって異なるが「134日から3年以上」(CBCより)と、かなりの長期にわたった。

そして24人は2003年に「人権侵害」として裁判を起こし、ようやく今年1月12日に判決。裁判所は「甚だしく不相応な対応」であることを認定し、さらにパンツの件も「常識の範囲を超えている」と24人の訴えに理解を示し、国連憲章に定められた人権に反するとした。

判決を受け、メンバーの弁護士は「(拘置所などの)環境が良くなれば、捕まった人も罪を認めるはず」と、現在の各施設が置かれる悪い環境が事態を悪化させていると苦言。カナダの司法当局もこの問題に取り組み、2012年には新たに少年拘置所を開設するなど、環境改善に向けて動いているという。

TOPへ戻る
このエントリーをはてなブックマークに追加

Copyright © Narinari.com. All rights reserved.