2日後に記憶が消える男性、精神的ショックで妻や娘との思い出も失う。

2009/10/07 18:14 Written by Narinari.com編集部

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嫌な思い出をできるだけ残さないようにすると言われる、人間の脳。大きなショックを受けた場合に、防衛本能としてその前後の記憶が失われるという話も聞かれる。しかし、そうしたショックを頻繁に受けてしまうと、脳も限界を超えることがあるようだ。警察官として働いていたある英国人男性は、仕事上で多くの事件現場を目撃し、心の中でストレスが蓄積。ある日突然頭痛に襲われると、妻や子どもの存在も含め、多くの記憶を失ってしまった。現在は治療により、2日間だけ物事を記憶していられる状態になったという。

英南東部コルチェスターに住む32歳のアンディ・レイさんは、妻のジョーさん、3歳の娘クロエちゃんとの3人暮らし。ごく普通に日常を送る幸せな一家だが、アンディさんの脳は2日間しか記憶を残しておくことができない。とは言っても、物事のすべての記憶を無くしたわけではなく、「歴史的事実や有名人の名前、車の運転のような一般的な知識の一部」(英紙デイリー・テレグラフより)はしっかり残っている。しかし、短・中期的な物事の記憶はすべて覚えていられず、結婚式や娘の誕生日、自分の親の記憶すらない状態だ。

「いつも社交的で明るい、ポジティブな人間だった」(デイリー・テレグラフ紙より)と妻ジョーさんが語る以前のアンディさんは、2000年から警察官として働き始める。その人柄もあって、仲間内でも人気があり、仕事熱心だったが、残念ながら性格的に警察官という仕事が向いてなかったようだ。駆け付けた事件現場で被害者の無惨な姿を目にするたび、アンディさんは少なからず精神的なショックを受け続けていたよう。次第に心を閉ざしがちになっていき、若者が電車に飛び込んで自殺を図った事件をきっかけに、警察を辞めてしまった。

その後、スーパーで働きだしたアンディさんは、ジョーさんと出会い結婚。2006年にはクロエちゃんも誕生し、幸せな時間に包まれるはずだったが、甘い時間はそう長くは続かなかった。ストレスから心臓を患ったアンディさんに、医者は「死ぬかもしれない」と仕事を辞めるよう説得。ところがその数週間後、今度はひどい頭痛とめまいに襲われ、車で病院に連れていこうとするジョーさんに「歩いていく」と告げて、1人で病院へと向かう。「散歩をすれば痛みが和らぐと思ったんでしょう」(英紙デイリー・メールより)とそのときを振り返るジョーさん。しかし、次にアンディさんに会ったときには、すでに自分のことも分からない状態になっていた。

病院に着いたとテキストメッセージが送られてきたあと、ジョーさんに次の連絡が入ったのは翌日の午前4時頃のこと。周囲をフラフラしていたアンディさんを保護した病院からの知らせだった。慌てて駆けつけたジョーさんが見たのは、まるで他人のように自分を見つめるアンディさん。医者は、蓄積されたストレスによって「記憶が拭きとられてしまう」解離性健忘症との診断を下した。戦争から戻って、数年経った兵士に時折見られるのと同じような症状だという。

自分や娘の記憶すら失った夫に記憶を取り戻してもらうべく、ジョーさんは足繁く病院へ。専門家の勧めで書き始めたアンディさんの日記には、当初「彼女との出会いを覚えていない」「彼女が話したことを覚えていられない」との文言が並んでいたが、必死に通うジョーさんに「彼女はとてもかわいくて、素晴らしい女性」ともつづられ始め、ジョーさんも「まるで新たなカップルのようだった」(デイリー・メール紙より)と話している。それから数か月後、2日間まで記憶することができるようになったアンディさんは、妻と子が待つ家へ帰宅した。

最初は「アンディがリラックスできるまで、ちょっと時間がかかった」(デイリー・メール紙より)そうで、以前のように手をつなぐまでには、病院を退院してから半年かかったという。ジョーさんは「たとえずっとアンディがこのままでも、私は彼を愛してるし、ずっと支えていく」(同)と語り、1日よりも長い時間は絶対離れないと決めている。一緒にいる限りは誰であるか認識できるというアンディさんに寄り添い、3人で少しでも幸せな時間を過ごしてもらいたい。

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