路上生活でも夢を諦めず、音楽の素人が数十年かけて作った曲に喝采も。

2009/10/04 20:49 Written by Narinari.com編集部

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夢を実現させるためには、運や出会いも大切な要素。なかなか形にならなくとも諦めずに努力を続ける中で、なにかのきっかけや人との出会いによって急に道が開けたというストーリーはよく聞かれる話だ。英国のある男性は生まれたばかりの息子が亡くなった際、頭の中にメロディーが流れた。音楽には全く縁のない人生を歩んできた男性だが、次第に「いつかこのメロディーを現実の音で聞きたい」と夢見るようになる。その後、紆余曲折の人生を経ながらも、ある指揮者と知り合い、時間をかけてようやく曲が完成。演奏したロンドン・フィルハーモニーのオーケストラからも喝采を浴びる曲に仕上がったという。

67歳のスチュアート・シャープさんの公式サイトによると、その人生は、息子の死をきっかけに大きな転機を迎える。シャープさんは46年前、21歳のときに、子どもの頃から知り合いだった女性と結婚。しばらく2人の時間を過ごし、結婚から10年以上が経った1974年に、待望の第1子となる女の子が生まれた。そして翌年には男の子が生まれたが、残念ながら間もなく他界。妻も体調を崩して1年以上入院し、シャープさんは小さい娘を育てるためにパブでシェフとして働き、忙しい日々を送ることになる。

入院生活を終えて妻が帰宅すると、夫婦は養子をもらうことに。しかしそれが亡くなった息子を思い出させてしまったのか、シャープさんは落ち込むようになり、一晩でウイスキーを1本空けるほど酒に頼る日々となってしまった。そんなシャープさんの唯一の安らぎが、息子の葬式の夜に頭の中に浮かんだメロディー。音楽を全く知らないシャープさんだったが、そのメロディーは頭の中に強く残り、やがて「素晴らしいオーケストラに演奏してもらえるよう、曲を作りたい」と思うようになったそうだ。だが、話を聞いた妻は夫の頭がおかしくなったと思い、結婚生活は破たんしてしまった。

家を出たシャープさんは、それから約10年間、ホームレス生活に身を投じる。日雇いの仕事をこなしながら細々と生活をする中でも、曲を作るという夢を持ち続けたシャープさんは安いギターを買い、何とか音にしようと試みた。そんなシャープさんが、英放送局BBCの社屋近くで生活している時のこと。偶然ジャズ音楽家のアンソニー・ウェード氏に出会うと、ウェード氏は生活する場所を与えてくれたばかりか、シャープさんの曲作りにも協力、夢の実現へ少しずつ歯車が動き始める。

その後シャープさんは一時ウェード氏のもとを離れたようだが、その間にビジネスマンとして成功し、自身のレコーディングスタジオを購入するほどにのお金持ちへと変身した。1994年には再びウェード氏を探し出して曲作りを本格的に開始。ある程度曲が形になった段階で、ウェード氏は1997年に友人の指揮者アラン・ウィルソン氏に聞かせると、ウィルソン氏は「衝撃を受けた」ため、曲の完成に向けて協力を申し出た。

しかし、譜面の読み書きができないシャープさんとのやり取りは苦難の連続。さらに資金面の問題もあり、なかなか作業ははかどらなかったそうだ。

「Angeli Symphony」と名付けられたこの曲は、3章40分に渡る大作で、まずシャープさんが音を伝えるまでが一苦労。頭の中から紡ぎだすにも時間がかかり、さらにその音は電話でウィルソン氏に直接伝えられ、急いで譜面に書きとるといった作業が続いた。それをオーケストラが演奏したものを、シャープさんが聞いてイメージと違うところを指摘・修正と、完成まではこの繰り返しだったそうだ。

そしてついに、ロンドン・フィルハーモニーの演奏によって「Angeli Symphony」はレコーディングが完了。演奏後には、オーケストラからスタンディングオベーションが送られた。ちなみにシャープさんについて、指揮を務めたウィルソン氏は「プロではない音楽家が、これほどの品質の曲を作るのは驚くべきこと」(デイリー・メール紙より)と称賛している。

なお、この曲はシャープさんの人生を記録した映画で使用されることも決まり、映画は現在撮影中だという。また、「Angeli Symphony」のサイト(//www.rexfordmusic.net/)では曲のMP3を公開している。「音楽の素人」の頭に浮かんだイメージから、長い年月をかけて紡がれたこの曲を、ぜひ聞いてみていただきたい。

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